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» 2016年06月10日 13時00分 UPDATE

蓄電・発電機器:グリーン・低コスト・高性能――リチウム蓄電池を改善 (1/3)

産業技術総合研究所の研究チームは、イオン液体と似た「共融系液体」と呼ばれる物質を利用して、従来のリチウムイオン蓄電池とは異なる方式で動作する蓄電池を試作した。有機電解質を使わない方式を目指す。

[畑陽一郎,スマートジャパン]

 産業技術総合研究所は、2016年6月20日、安価でレアメタルを用いないリチウム蓄電池セルを開発したと発表した*1)

 開発品の特徴は、「共融系液体」と名付けた混合物を正極側に用いたこと。世界初の利用だという。これが2つの利点に結び付く。第1に、コバルトやニッケル、マンガンといったレアメタルを正極活物質として利用しなくても蓄電池として機能する。より安価な蓄電池の実現に向く。

 第2に、一般的なリチウムイオン蓄電池とは異なり、固体の正極活物質にリチウムイオンが潜り込む反応(インターカレーション)が起きないため、結晶構造上の劣化が生じない。より寿命が長い蓄電池に向いた性質だ。

*1) 産業技術総合研究所省エネルギー研究部門で首席研究員を務め、南京大学講座教授、筑波大学連携大学院教授を兼任する周豪慎氏と、同研究所でエネルギー界面技術グループに所属する王雅蓉氏が、三菱自動車と共同で開発した。今回の成果を英国の学術誌「Energy & Environmental Science」のオンライン版に掲載した(DOI: 10.1039/c6ee00902f)。

正極側に特徴あり

 一般的なリチウムイオン蓄電池の構造と新規に開発した構造を比較してみよう。図1は最も初期に製品化されたリチウムイオン蓄電池の構造を示したもの。基本的な構造や材料は現在量産されているものと変わらない。

 正極のコバルト酸リチウム、負極のグラファイトとも、リチウムイオン(Li)を出し入れしやすい。これがリチウムイオン蓄電池の寿命(サイクル寿命)を支えている。

図1 一般的なリチウムイオン蓄電池の構造 負極から正極にリチウムイオン(Li+)が移動している。放電時の動作だ。正極にリチウムイオンが潜り込む反応(インターカレーション)は正極の結晶構造をわずかずつ乱していく。両極の接触を防ぐセパレーターは省略した。

 図2は今回発表された構造。右側から、メッシュ状の銅に同じくメッシュ状のリチウムを付けた負極、次いで、グラスファイバーに有機電解質をしみこませた有機電解液。固体電解質(LATP)。

 図2ではピンク色をした左側の構造に特徴がある。この構造は電解質を含まず、安価な鉄イオン複合体(Fe3+複合体とFe2+複合体)を利用して動作する。

 放電時には、リチウムが放出した電子を鉄イオン複合体のうちの1種(Fe3+複合体)が受け取り、もう1種(Fe2+複合体)に変化する。充電時は逆の反応を示す*2)

*2) 放電時の負極側の反応は、Li → Li + e。正極側の反応は、[FeCl2(OD)4 + OD + e → [Fe(OD)52+ + 2Cl。全反応は、Li + [FeCl2(OD)4 + OD → Li + [Fe(OD)52+ + 2Clである。ODは酸素ドナー(Oxygen Donor)の略称。錯体の配位子である。

図2 共融系蓄電池の構造 放電時の動作を示した。出典:産業技術総合研究所
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