電力の未来を変える「リソースアグリゲータ」、分散するエネルギーを余らせないエネルギー管理(1/2 ページ)

太陽光発電が急速に広がり、季節や時間帯によっては電力が大量に余る状況になりつつある。地域に分散する電力源を情報通信ネットワークで制御しながら、小売電気事業者が必要とする電力をタイムリーに供給する。そうした役割を担う「リソースアグリゲータ」の実証プロジェクトが始まった。

» 2016年08月05日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 NEC(日本電気)や東京電力グループなど9社が新たな実証事業を8月1日に開始した。テーマは「バーチャルパワープラント(仮想発電所)」の構築と「リソースアグリゲータ」の実現だ。地域に分散する電力源を1つの発電所のように運営するのと同時に、集約した電力を小売電気事業者に供給するビジネスモデルを作り上げていく(図1)。

図1 「リソースアグリゲータ」の役割(画像をクリックすると拡大)。出典:NECほか

 このモデルを実現できれば、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入量を最大化できるうえに、小売電気事業者は必要とする電力を低コストで調達できるようになる。地域全体の電力の需給バランスを調整しやすくなって、送配電事業者のコスト削減にもつながる。発電・送配電・小売の3分野すべてにメリットをもたらす理想的なシステムとして期待がかかる。

 すでに欧米の先進国では取り組みが進んでいて、再生可能エネルギーを最大限に生かした電力の安定供給体制を実現している。実際にリソースアグリゲータの仕組みを構築するためにはICT(情報通信技術)が不可欠で、日本でもICTの大手と電力会社が組んで実用化に動き出した。

 企業や家庭などの需要家が生み出す電力は今後ますます拡大していく。太陽光発電のほかにも、家庭用の燃料電池(エネファーム)や工場などのコージェネレーション(熱電併給)システムが増え続ける。経済産業省によると、2030年には大規模な火力発電所の24基分に匹敵する電力を需要家側で作り出せるようになる見通しだ(図2)。

図2 需要家側のエネルギーリソース(2016年1月時点の予測、画像をクリックすると拡大)。DR:デマンドレスポンス、PV:太陽光発電、HEMS/BEMS/FEMS:家庭/ビル/工場エネルギーマネジメントシステム、EV/PHV:電気自動車/プラグインハイブリッド自動車。出典:経済産業省

 その一方でHEMS(家庭向けエネルギーマネジメントシステム)やEV(電気自動車)が普及して、需要家側でも自律的に電力の需要と供給を調整できる。こうした節電・蓄電の機能を生かすと、火力発電所の13基分に相当する電力が調整可能になる。発電する電力と合わせれば3770万kW(キロワット)にのぼる。東京電力の管内で春や秋の需要が小さい時期の最大電力と同等の規模である。

 この火力発電所37基分の電力の中から、余剰分をリソースアグリゲータが集約して小売電気事業者に供給できるメリットは大きい(図3)。夏や冬の電力需要が増える時期には、供給力が不足する状況にもかかわらず、太陽光の電力が余るケースが発生してしまうのが現状だ。

図3 「リソースアグリゲータ」による電力供給イメージ。出典:産業競争力懇談会

 特に太陽光発電が急増している九州では、発電設備の出力を抑制する必要性が高まってきた。その結果、発電事業者は一時的に再生可能エネルギーの電力を作ることができなくなって、売電収入も減ってしまう。リソースアグリゲータの目的の1つは、再生可能エネルギーの出力抑制を可能な限り少なくすることにある。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.