自由化を機に急速に進み始めた電力・ガス産業の将来に政府は強い危機感を示す。新たに委員会を設置して2030年の産業構造の検討に着手した。電力・ガスともに需要が伸びない状況で競争が激化し、各社の経営リスクは高まっていく。その一方で海外市場や新規事業に成長の可能性を秘めている。
注目すべき「電力・ガス基本政策小委員会」の第1回会合が10月18日に開かれた。電力とガスの小売全面自由化の進展状況などを確認した最後に、電力・ガス産業の将来像の検討に着手する方針を打ち出した。2020年代の初めに完了する電力・ガスシステム改革の次の産業構造を描くことが目的だ(図1)。
なぜ2030年に向けた産業構造の将来像を検討する必要があるのか。そこには政府の強い危機感が表れている。長年にわたって規制に守られてきた電力・ガス市場の改革を進める中で、想定以上の構造変化が起こり始めたからだ。需要の減少が続く一方、供給面では再生可能エネルギーの拡大と化石燃料の価格下落が急速に進んでいる(図2)。
政府が2015年4月に策定した2030年度の電力需給構造の見通しは早くも修正を迫られている(図3)。経済成長に合わせて長期的に需要が増えていく予測を立てたものの、現実には省エネ技術の進展や企業・家庭の節電対策によって減少していく可能性が大きくなった。
供給面では電源構成の見直しが避けられない。需要が減少すれば2030年度の発電量も少なくて済む。再生可能エネルギーの比率が想定を上回って、原子力の比率が大幅に下がることは確実な状況だ。
さらに電源構成に入っていないガスコージェネレーション(熱電併給)や燃料電池の普及が見込まれる。再生可能エネルギーによる電源と合わせて、電力会社に依存しない分散型の電源が2030年度には30%以上に達している可能性が大きい。
そうなると、大規模な火力発電所や原子力発電所を事業基盤に据える電力会社の経営は厳しくなるばかりだ。同様に需要の伸び悩みと自由化による市場競争にさらされるガス会社の経営環境も大きく変化していく(図4)。政府が電力・ガス産業の将来に不安を抱くのは当然である。
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