水素の貯蔵・輸送技術が進展、実用化に残る課題はコストダウン自然エネルギー(1/2 ページ)

千代田化工建設が水素を液化して貯蔵・輸送する技術の開発を進めている。気体の水素を有機化合物と反応させて液化した後に、再び気体の水素を抽出する方法だ。実証プラントを使って100%に近い変換効率を達成した。大規模な設備の実用化に向けて、改良によるコストダウンの段階に入った。

» 2016年11月11日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 いまや国を挙げて水素エネルギーの開発と普及に取り組む中で、プラントエンジニアリング会社の千代田化工建設は先行して2005年に「水素サプライチェーン構想」を提唱した。国内外で生まれる大量の水素を気体から液体に変換して貯蔵・輸送したうえで、再び気体の水素を取り出して燃料電池などに供給するシステムである(図1)。

図1 「水素サプライチェーン構想」の実現イメージ(画像をクリックすると構想全体を表示)。IS法:ヨウ素−硫黄法(熱エネルギーで水から水素を製造する方法)。出典:千代田化工建設

 水素の液化技術の1つである「有機ハイドライド法」を使ったシステムの実証プラントを横浜市内の研究所に建設して、1年半に及ぶ運転状況を検証した。2016年10月に公表した報告書によると、気体の水素から液体へ、さらに液体から気体の水素へ変換する効率が100%に近い高水準に達している。

 有機ハイドライド法は気体の水素を有機化合物に吸収した後に、特殊な触媒を使って水素を取り出す技術だ。常温・常圧の状態で水素を貯蔵・輸送できるため、大量の水素を低コストで長距離に運べる利点がある。千代田化工建設はガソリンの主成分であるトルエンに水素を吸収する「SPERA水素システム」を開発して実用化を目指している。

 SPERA水素システムの実証プラントは2種類の設備で構成する。水素の液化と気化を実行する反応セクションのほかに、液化や気化に必要なトルエンなどを供給するための貯蔵セクションがある。このうち反応セクションは気体の水素を液化する供給側の装置と、液化した状態から気体の水素を取り出す需要側の装置を組み合わせたものだ(図2)。

図2 「SPERA水素システム」の実証プラント(反応セクション)。出典:千代田化工建設

 水素はトルエンと反応してMCH(メチルシクロヘキサン)と呼ぶ液体に変わる。MCHは常温・常圧で安定した状態を保つことができ、医薬品の製造などにも使われている。実証プラントの貯蔵セクションには、液化と気化の両方のプロセスに利用するトルエンとMCHを貯蔵するタンクが並んでいる(図3)。

図3 「SPERA水素システム」の実証プラント(貯蔵セクション)。出典:千代田化工建設

 実証プラントでは1時間あたり50立方メートルの水素をトルエンと反応させてMCHを作り、その後にMCHから水素を取り出す工程まで連続して実行できる。水素の取り出しに必要な触媒には白金と酸化アルミニウムで作る白金アルミナ触媒を使う。

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