金属めっき技術で水素の製造コストを下げる、産学官の連携で特許自然エネルギー

水素を安価に製造する技術の開発が各方面で活発になってきた。新たに金属めっき技術を応用して低コストで水素を製造できる「金属複合水素透過膜」の特許が成立した。福島県で工場を運営する金属めっき会社が大学や国の研究機関と共同で開発を進めた。燃料電池や水素ステーションに生かせる。

» 2017年01月23日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 水素を安価に製造できる「金属複合水素透過膜」の特許を取得したのは、貴金属表面処理加工会社の山王と東京工業大学である。従来の水素分離・透過膜よりも薄いミクロン(1000分の1ミリメートル)単位の膜を金属の複合体で製造する技術だ(図1)。2015年8月に2件の特許を出願して、2016年10月から12月にかけて登録が完了した。

図1 水素を分離・透過する仕組み。従来のセラミックを使う方法(上)、新開発の多孔質ニッケル支持体を使う方法(下)。HC:炭化水素。出典:山王

 水素を製造する方法には主に4種類あり、現在のところ天然ガスなどの化石燃料から製造する方法が主流になっている(図2)。化石燃料の主成分である炭化水素(HC)を改質して水素(H2)を取り出すことができる。この過程で水素を分離・抽出するために使うのが水素透過膜である。

図2 水素の主な製造方法。出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構

 炭化水素から水素を発生させるためには触媒が必要で、パラジウムや白金などの貴金属を使う方法が一般的だ。従来はセラミックと貴金属を組み合わせて水素透過膜を製造している。ただしセラミックには強度の問題がある。

 新たに開発した「金属複合水素透過膜」はセラミックの代わりに、多孔質の金属材料を使って強度を高める。と同時に貴金属の部分を約10分の1に薄く加工できる利点がある(図3)。高価な貴金属の使用量を大幅に減らせるため、製造コストの低減につながる。

図3 多孔質の金属材料で作る「金属複合水素透過膜」の利点。出典:山王

 山王が保有する金属めっき技術を生かして、厚さが10ミクロン以下の「金属複合水素透過膜」の製造が可能になった。金属のニッケルで作った多孔質の支持体(ベース素材)に、1〜2ミクロン程度の厚さで貴金属透過膜を組み合わせる方法だ。実験装置を使って試作した結果、10ミクロン以下で「金属複合水素透過膜」を製造できることを確認した(図4)。

図4 「金属複合水素透過膜」の構造(上)、断面(下、電子顕微鏡)。μm:ミクロン。出典:産業技術総合研究所

 この技術は山王が国の「被災地企業のシーズ支援プログラム(福島再生可能エネルギー研究開発拠点機能強化事業)」の採択を受けて、産業技術総合研究所の「福島再生可能エネルギー研究所(FREA)」と共同で研究に取り組んだ成果である(図5)。東京工業大学の水素関連技術も生かして産学官の連携で実現した。

図5 「被災地企業のシーズ支援プログラム」による開発体制と研究成果(画像をクリックすると拡大)。FREA:福島再生可能エネルギー研究所。出典:産業技術総合研究所

 今後は「金属複合水素透過膜」の実用化に向けて、製造技術の改善や水素の透過性能の向上に取り組む。実用化できれば燃料電池と水素ステーションのコストを低減できて、国が推進する水素エネルギーの普及を加速する期待がある。

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