薄膜太陽電池で効率20.1%、スマホから建物まで蓄電・発電機器(1/2 ページ)

急速に変換効率を高めつつあるペロブスカイト薄膜太陽電池。カナダトロント大学の研究チームは変換効率20.1%の太陽電池セルを開発した。狙いは従来のシリコン太陽電池の「ブースター」として使うことだ。

» 2017年02月20日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 現在のシリコン太陽電池よりも変換効率が高く、同時にコスト高にならないような技術が欲しい。そのためには、シリコン太陽電池の上に別の薄膜太陽電池を重ねて、電力を「二重に」得る手法が適しているのではないだろうか*1)

 カナダのトロント大学が2017年2月16日に発表したペロブスカイト太陽電池セルはこのような目的に沿ったものだ(図1)。

 変換効率は20.1%。ペロブスカイト太陽電池セルの過去の世界記録よりも2ポイント程度低いものの、総コストで勝ることを目指した*2)。これまでの最高効率を記録したセルはシリコン太陽電池と組み合わせることが困難だった。トロント大学の研究チームが開発したペロブスカイト太陽電池セルは、シリコン太陽電池セルと組み合わせることが可能なものでは最も効率が高い。

*1) 製造コストを度外視して変換効率を高める手法もある。宇宙用途の太陽電池では、ガリウムヒ素などIII-V族系の材料を重ね合わせて46%という変換効率を実現している。III-V族系の材料と鏡やレンズを組み合わせて集光型太陽電池を作り上げ、総コストを引き下げる取り組みもある。
*2) 研究チームが試作した太陽電池セルは2種類ある。0.049センチメートル(cm)角(最高効率20.1%)、1.1cm角(同19.5%)。試作したセルの枚数は204枚であり、変換効率の散らばりは約18%〜20.1%、平均値は19.6%だった。

図1 試作したペロブスカイト太陽電池セルの外観 寸法は1.1センチメートル角 出典:University of Toronto(撮影:Kevin Soobrian氏)

なぜシリコン太陽電池との組み合わせが難しいのか

 ペロブスカイト太陽電池は、微細化した太陽電池材料を溶液に混ぜ込み、インクジェットプリンタのように薄く印刷することで発電層を作り出すことができる。「太陽電池インク」を使うことで製造コストが低くなる。

 完成したシリコン太陽電池セルの上にペロブスカイト太陽電池を印刷すれば、目的を達成できるように思える。ペロブスカイト太陽電池の厚さは1000分の1ミリメートル以下であり、ここで吸収できなかった光を下層のシリコン太陽電池でさらに電力に変えることが可能だ。

 ペロブスカイト太陽電池は内部に複数の層をもつ。特に直接発電を担うペロブスカイト層が生み出した電子を抽出し、電極(回路)に渡す「電子輸送層(ESL:Electron-Selective Layer)」に課題があった。

 トロント大学のElectrical and Computer Engineering学部で教授を務めるTed Sargent氏の研究室では、ポストドクトリアル研究員のHairen Tan氏が中心となって、電子輸送層の課題を解決した(図2)。

図2 研究チームの中心メンバーであるHairen Tan氏と試作した太陽電池セル 出典:University of Toronto(撮影:Kevin Soobrian氏)
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