「この絵、生成AI使ってますよね?」──“生成AIキャンセルカルチャー”は現代の魔女狩りなのか 企業が採るべき対策を考える(3/4 ページ)
生成AIのキャンセルカルチャー、企業は何ができるのか?
この投稿とそれが引き起こしたネット上の議論は、マスメディアの注目も集めるところとなり、さまざまな報道機関で取り上げられることとなった。
その一つ、英ガーディアン紙の報道によれば、ブルームズベリー・パブリッシングは「社内のデザインチームがHouse of Earth and Bloodの英国向けペーパーバック版の表紙を作成したが、(Adobe Stockから)ライセンスを取得した時点では、AIが生成したものとは認識していなかった」と釈明している。ただ本稿の執筆時点で、問題となったペーパーバック版の公式ページには、依然として同じ画像が表紙に使われている。
また米The Vergeは、この問題を報じた記事の中で、フリーランスのアーティストの言葉として「ブルームズベリーは大手出版社の一つで、AI生成コンテンツが含まれているAdobe Stockからイラストを購入する代わりに、本物のイラストレーターを雇う余裕があったはず」という意見を紹介している。
大手出版社が発行する人気作家の著作ですら、AI生成コンテンツが使用されてしまうのか――そんな反発がこの騒動の裏側にあったことを、彼らは指摘しているのである。
ここに一つ、興味深い研究結果がある。米MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者らの実験によると、人はあるコンテンツが人間によって作成されたか、それともAIによって生成されたかを知っている場合、人間が作成したコンテンツに好意的な傾向を示すというのだ。
この実験では、作成されたコンテンツは絵ではなくキャッチコピーだったが、コンテンツの出どころを知らされた被験者たちのグループは、そうでないグループと比べ、人間が関与した仕事に対する評価を上げた。これを研究者たちは「人間びいき」と呼んでいる。
恐らく現実世界でも、この「人間びいき」に近い感情が起きているのだろう。人間を雇う余裕のある企業、あるいは予算が潤沢に与えられているであろう人気コンテンツなのだから、人間に利益を還元すべきだ──そんな感情が、プリキュアやHouse of Earth and Bloodを巡る騒動の一因になっていたと考えられる。
それではこうした炎上を回避するために、企業は何ができるのだろうか。1つは当たり前の話だが、生成AIの利用を全面的にやめることだろう。しかしプリキュアの件のように、実際には生成AIを使っていなくても「AIっぽい」というだけで非難の声が起きる場合もある。
また企業は慈善団体ではないのだから(もちろん慈善事業の価値を否定するものではないが)「予算があるなら人間のクリエイターを雇おう」というのもおかしい。生成AIを使っていようがいまいが、生成AI利用に対する反発を想定して、それに対応する施策を考えておくべきだ。
その意味で重要になってくるのが、自社の生成AIに対するスタンスを明確にし、その原理原則に従って社内が行動するようにして、必要があれば説明できるような体制を整えておくという点だ。
「人間のクリエイターを大事にしたい」という姿勢を打ち出す企業があって良いし、逆に「顧客が喜ぶコンテンツを安く提供するために、生成AIを使えるところがあれば使っていく」という企業があっても良い。
いずれにしても企業としての考え方を明確にして、それが現場でも守られるようにルール化する。そしてHouse of Earth and Bloodの件のように、ネット上で何らかの反応があった場合には、その経緯についてすぐに説明できるようにするのである。
そう考えるとこれからの企業には、自社で使用し対外的に発表するあらゆるコンテンツについて、それがどのように作られたものであるかを明らかにできる体制や、トレーサビリティーを実現する制度・システムが必要になるのだろう。
それはプリキュアを擁する東映のようなコンテンツ制作会社や、ブルームズベリーのような出版社に限った話ではない。あらゆる企業がCMや小冊子、顧客向けマテリアルといったコンテンツを作成している以上、生成AIに対するキャンセルカルチャーの標的になる可能性がある。
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