開発・学習段階では、作風が類似する作品が大量生成される場合の整理が注目されます。少し前提を説明しますと、著作権法第30条の4という規定によって、AI 学習用データセット構築のための学習データの収集・加工などについては、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能です。この際に「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、第30条の4による利用は行えません(第30条の4但書)。
作風が類似する作品が大量に生成される場合「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるのか、という点は、意見が分かれるところです。パブコメ前の「考え方」でも、肯定・否定の双方の見解が紹介されていました。
簡単に紹介しますと「考え方」の基本的な整理は、作風や画風はアイデアであり、アイデアは著作権法上保護されないため、作風や画風が類似する作品が大量に生成される場合も「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には当たらない、というものです。
他方で、別の見解として、特定のクリエイターや著作物への需要が、AI生成物に代替されてしまうような事態が生じる場合「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得るという意見も紹介されています。
この点は、パブリックコメントでも、法人・団体・個人を問わず、それぞれの意見が真っ向から対立しています(パブコメNo.169-185)。
最終的に、この点については、双方の見解がそのまま「考え方」の本文に掲載されていますが、これは、委員間で意見が相当激しく対立していたことを伺わせるものです。
なぜならパブリックコメントにおいて「読み手にとって可能な限り明確な記載となるよう、できる限り両論併記を避け、本小委員会の審議において委員間で多数を占めたと考えられる意見を本文に記載し、これ以外の意見を脚注に記載することとしています」との考えが示されているためです(パブコメNo.45,46,269,333)。
実際に他の箇所では、本文の見解以外の「意見」は脚注に記載されており、本文に「意見」が記載されている箇所は、この点の部分のみです。
特定のクリエイター“風”の作品を生成するAIは既に存在しており、現に被害を受けたクリエイターの方から相談を頂いたこともあります。この論点に関しては、今後、裁判で争われることも十分に考えられ、裁判所の判断も注目されるところです。
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