このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国の清華大学に所属する研究者らが発表した論文「Agent Hospital: A Simulacrum of Hospital with Evolvable Medical Agents」は、大規模言語モデル(LLM)を用いて、患者、看護師、医師などの役割を持つ自律的なエージェントによって構成した病院のシミュレーション環境を提案した研究報告である。
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病気の発症から治療、回復までの一連のプロセスを忠実に再現しており、トリアージ、受付、診察、検査、診断、投薬、療養、退院後のフォローアップなど、病院の主要な機能が網羅的にシミュレートされている。
Agent Hospitalの大きな特徴は、シミュレーション内で医師エージェントが人の手を介さずに治療能力を向上させることができる点である。病気の発症や進行をLLMによって知識ベースに基づいてシミュレートできるため、医師エージェントは成功例と失敗例の両方から経験を蓄積し続けられる。この自律的な学習プロセスを「MedAgent-Zero」と呼び、パラメータフリーかつ知識フリーで医師エージェントを無限に訓練できるのが特徴だ。
住民AIの受診例 ケネス・モーガンが体調を崩し、Agent Hospitalを訪れる。トリアージナースのキャサリン・リーが、モーガン氏の症状の初期評価を行い、皮膚科を紹介する。その後、モーガン氏は病院の受付で登録し、皮膚科医のロバート・トンプソンとの診察の予約を取る。指示された検査を受けた後、モーガン氏は診断と処方薬を受け取る。自宅に戻って休養し、症状の改善を観察する。シミュレーション実験では、医師エージェントが診察、診断、治療の各タスクで一貫して能力が向上していくことを示した。実際の医師であれば患者1万人を診るのに2年以上かかるところ、Agent Hospitalでは数日のうちに1万人以上の患者を診療できる。
さらに、Agent Hospitalで獲得した知識は、実際の医療ベンチマークにも適用可能である。1万人の患者を診た後、進化した医師エージェントは、主要な呼吸器疾患を対象としたMedQAデータセットのサブセットにおいて、最先端の93.06%の精度を達成した。これは、人手でラベル付けされたデータを一切使わずに達成された成果である。
Source and Image Credits: Junkai Li, Siyu Wang, Meng Zhang, Weitao Li, Yunghwei Lai, Xinhui Kang, Weizhi Ma, Yang Liu. Agent Hospital: A Simulacrum of Hospital with Evolvable Medical Agents.
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