対照的に、従来の将棋AIと異なる作りになっているのが、後者のディープラーニング系だ。米Google DeepMindが開発したモデル「AlphaZero」に端を発し、探索アルゴリズムの一種である「モンテカルロ木探索」とディープラーニングを組み合わせている。
この組み合わせは将棋以上の複雑さを持つ囲碁AIの計算でも使われており、膨大な指し手の候補から効率よく最善手を探すことを可能にする。このモデルを参考にして作った将棋AI「dlshogi」の活躍や、その開発者が執筆した将棋AIの参考書が広まったことによって、その強さは増していった。
これらのテクノロジーを活用した現行の将棋AIは、人間に比べてどれほど強くなったのか。相対評価で対戦競技の実力を示す「イロレーティング」で比較してみると、水匠が4776、24年の将棋AI世界大会で優勝したAI「お前、CSA会員にならねーか?」が4914である。人間の限界は3000超といわれており、レーティングの差が500ある場合は上位者の勝率が95%となることから、人間が将棋AIに勝利するのはほぼ不可能だといえる。
こうした将棋AIについて、プロ棋士たちは主に対局の復習と予習に利用しているという。自分が指した将棋の棋譜をAIで解析し、どこの手が良くなかったのか、それに代わる最善手の考察や、今後の対局で出てくる可能性の高い局面をAIで調査。対戦時に有効な一手や、どのくらいの勝率があるのかを学ぶことに使われている。
すでに人間のはるか高みにいる将棋AI。しかし今後、将棋AIはさらに強くなる可能性があるという。例えば、ディープラーニング系の将棋AIの評価関数は現在、画像識別の分野でよく出てくる「ResNet」と呼ばれるものが主流となっている。
これに「attention」という仕組みを導入することで、さらに強くなることが判明している。attentionは、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)に使われている技術で、主に入力データの中で、各要素が他の要素に対してどれくらい重要かを判断するものだ。このような機械学習分野での最新の知見を導入することで、将棋AIはさらに強くなる可能性があるという。
この他にも、将棋AIにはまだまだ改良できる点が残っており、そのうち1つでも改良できれば、より強い将棋AIを作れる可能性がある。またNNUE評価関数を組み込んだAIモデルとディープラーニング系のAIモデル、どちらのソースコードもオープンソースで公開中だ。
そのため、杉村さんとやねうらおさんは「ワンアイデアであなたも世界最強の将棋AIを作ることができる」と説明。エールとも挑戦状とも受け取れる言葉を残し、講演を締めくくった。
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