東京都は12月5日、AIによる行政サービス変革の実現に向けた「東京都AI戦略会議」の第1回を実施した。座長は東京大学の松尾豊教授で、東京都のAIアドバイザーに就任した安野貴博さんや、AIスタートアップSakana AIの伊藤錬COOなどが委員として参加。都の生成AIプラットフォームに対し、松尾座長が「めちゃくちゃいい。全体アーキテクチャをこれほど考えたものは見たことがない」と評する場面もあった。2025年夏ごろをめどにAI戦略を策定して公表する予定。
会議冒頭、宮坂学副知事が「スマート東京構想を進めているが、動きがものすごいAIについては別枠で、地方自治体やこの東京に取り入れることができるのかという問題意識でこのような場を作らせていただいた」と挨拶。今後、公務員の人数も減少していくことが見込まれる中、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)やDXによる効率化が必要として、AIに期待を寄せた。
初回の議題としたのは、「都が考えているAI戦略会議の5つのテーマ」と「都のAI活用における現在の取り組み」の2つ。
AI戦略会議のテーマは、
の5つ。
特につかう力については複数の委員から意見があった。安野委員は「行政での活用をメインに書かれているが、教育面や企業のAIリテラシーの底上げもひとつの重要なテーマでは」とし、さらに「アジリティも重要。AI分野は変化が早い領域で、OpenAIも明日から12日間にわたって大きな発表をすると言っている。行政が動くとなると1年先の予算執行を待たないといけないなど、変化に対応できないこともあるかもしれない」として、そうした変化を前提とした準備ができるのではないかと提言した。
委員として参加した東京大学の江間有紗准教授は「行政でのAI活用が日本では特に遅れている。他の国から学べることもある。東京都の事例を積極的に発信できるといいのではないか」とコメントした。
伊藤委員は補助金などの審査業務へのAI適用を進言。「オランダではビザの申請のスコアリングが始まっている。東京都で言えば、補助金などの申請に対する審査を全て手動でやるのではなく、アルゴリズムに加えてAIを活用することでスコアリングができるのでは」とした。
委員参加の岡田淳弁護士は「医療や教育、審査業務は行政ならではの本質的な効率化が求められる領域だが、効果の高い活用をしようとすればするほど『どこにどういうデータを使っているのか』という都民の懸念も当然出る。しかし、多少でも懸念があるから全く前に進めない、ではなく、小さなプロジェクトから進めるでも構わないし、とにかく試行錯誤をしながら前に進めようと努力するのが大事」として、AI活用とガバナンスを両立させながら前進することの重要性を説いた。
現在進めている都の取り組みとして、東京全体のDX推進を目的に設立された外郭団体であるGovTech東京の井原正博CTOが、東京都デジタルサービス局と協働して開発している生成AIプラットフォームについて説明。全庁が使える共通基盤を構築することで、隣の局が作ったAIアプリも簡単に他の局や区市町村に展開可能という。
プラットフォームのインフラ環境は米MicrosoftのAzure。利用可能なAIモデルは、Azure OpenAI ServiceによるGPT-4oなど、米GoogleのVertex AIによるGeminiやClaudeなど、他にローカルLLMとしてLlama 3.1などを用意する。Azure上で生成AIアプリ開発プラットフォーム「Dify」を動作させることで、各種AIモデルをつないだAIアプリの開発を可能とする。Dify上に局や区といった区切りごとにワークスペースを用意し、それぞれのワークスペースにRAG用のデータベースも設置する。Dify上のAIアプリはYAMLというデータ記述言語で書かれるため、他のワークスペースへの横展開も可能としている。
全庁向けのプラットフォームとすることについて安野委員からは「過度な一般化は柔軟性や開発スピードを損なうおそれがある他、本当に効果的な活用領域を見誤ってしまう可能性がある」と指摘があった他、都のAI活用・開発の原則案について江間委員からはAIガバナンスルールが未定義であることの指摘があった。
松尾座長は各委員の意見も踏まえた上で「基本的にめちゃくちゃいいと思う。全体アーキテクチャをこれほど考えたものは見たことがない。こういう風にやっていこうという方針もすごくいい。良いからこそ、もう少し柔軟にしてはどうかと委員からご意見をいただいていると思う」として、都の取り組みを後押しした。
今後のスケジュールについては、初回の議論を受け、2025年1月中に論点を整理し2月上旬に第2回を開催する。2月中旬に論点整理を公表し、夏ごろをめどに「東京都AI戦略」を策定し公表する予定だ。
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