AI業界の話題をさらう大規模言語モデル「DeepSeek-R1」。その性能や成り立ちに関する情報から、AI開発者やユーザーだけでなく、世界の株式市場も巻き込んで話題になっている。一方、中国産とあって「天安門事件」「尖閣諸島問題」といった話題に回答できない点が問題視されていた。
しかし公開から数日が経過し、派生モデルが登場すると、そのリスクを避けられる可能性も出てきた。例えばSNSでは、サイバーエージェントによるDeepSeek-R1の蒸留(既存の大きなモデルを基に、近い性能を持ったより小さいモデルを開発する手法)モデルに日本語での追加学習を施したモデルであれば、政治的な質問にも問題なく答えられるとの情報があった。記者も実際に試し、その真偽を確認した。
結論から言えば、サイバーエージェントによる追加学習モデル「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-32B-Japanese」は、天安門事件や尖閣諸島問題に関する質問に回答できた。
蒸留モデルでも、よりパラメータ数の小さいモデルや、それを個人用のPCでも動かしやすいよう量子化した(精度を下げて軽量化した)モデルをローカルで動かした場合は、天安門事件や尖閣諸島問題に関する質問にも答える傾向があった。
しかし、蒸留モデルの中でも比較的パラメータ数が多く、DeepSeek-R1-Distill-Qwen-32Bのオリジナルでもある「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-32B」だと話は別。量子化の度合いによるが、手元で動かした場合でも、別のメッセージに遮られ、天安門事件や尖閣諸島問題に関する答えが得にくくなった。
参考:話題の中華LLM「DeepSeek R1」は、天安門事件を説明できるか あれこれ質問した
一方、DeepSeek-R1-Distill-Qwen-32B-Japaneseは回答が得やすかった。記者が用意できる環境でも動く8bit量子化モデルに聞いたところ、例えば天安門事件については以下のような回答が得られた。
天安門事件(1989年6月4日)は、中国政府による学生・市民デモの弾圧によって国際的に注目された出来事です。以下に要点を整理します。
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背景と経過
- 発端: 1989年4月、胡耀邦書記長の死を受けた学生や市民による民主化運動が北京天安門広場を中心に拡大。
- 政府側の対応: 戴帽兵(武力鎮圧)、戒厳令発布を経て、**6月3日深夜から4日未明にかけて**、軍隊・警察が広場に突入しデモを弾圧。
- 犠牲者: 中国政府は死者数を公表せず、国際調査では「数百〜数千人」と推定される。
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特徴的な事象
1. 戒厳令とメディア統制
- 外国人記者の取材中止・通信遮断が行われ、事件の真実を伝える報道は国際メディアを通じて広がりました。
2. 「天安門マザー」
- 子供を失った母親たちが年間3回(6月4日など)にわたり天安門広場で抗議する活動が継続されています。
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国際的影響
- 経済制裁の導入: 米国や欧州諸国が対中制裁を発動し、中国の国際社会への孤立が進みました。
- 人権問題としての定着: 国連やNGOが中国政府に「記憶の封鎖」を批判する動きが続いています。
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現在の状況
- 検閲と公式な沈黙: 中国ではこの件に関する情報が削除され、検索結果も制限されます。
- 民主化運動との関連性: 香港や台湾での活動家が事件を「民主化の象徴」として引用し、国際的な注目を集めています。
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中立な事実提示
- 政府側の公式記録は存在せず、証言や国外メディアの報道が主要情報源です。
- 中国政府は事件を「政治的混乱」と位置付け、国内では教育・メディアで言及を避け続けています。
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※注意: この件に関する情報は国際的には「人権侵害」であるとの共通認識がありますが、中国国内では検閲により異なる表現が用いられることがあります。
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尖閣諸島問題についてはこんな感じだ。
1. 過去との結びつき
- 「歴史的根拠」の限界性
両国の主張はともに「文献上の引用」に依存します。例えば、中国が指摘する『海国図志』(1842年)や日本側が挙げる『竹島領有案』(明治37年)ですが、これらは当時の実効支配を証明する直接的な記録にはなりません。
- 日清戦争の影響
1895年の下関条約で台湾が日本に割譲された際、付属書には「竹島群(尖閣諸島)」の名前は一切登場しません。これが後の主権論争の伏線となっています。
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2. 現代的な課題
- 資源利権の重要性
- 尖閣海域の「天然ガス田(東シナ海大油田)」は、中国がエネルギー安全保障に必要な埋蔵量を満たす可能性があります。
- 日本側は「国際海底資源機構(ISA)」との共同開発を提案しています。
- 地政学的価値
- 尖閣諸島は「第1列島線の要衝で、中国が南シナ海での拡張に加え、東シナ海でも勢力を伸ばそうとする背景があります。
- 米国は日本への「共同防衛義務」を明記した日米安保条約第5条を強調しています。
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3. 地球規模の視点
-気候変動と海洋環境
- 尖閣海域の埋立活動(中国による小笠原沖の人工島建設)は、サンゴ礁破壊や生態系影響が懸念されます。
- 日本が主張する「国際共同調査」の意義は、海洋環境保護という共通利益を通じた対話の場として重要です。
-技術的解決策の可能性
- 「海底通信ケーブル埋設」という具体的なプロジェクトを両国で推進する提案(例:中国・日本企業の共同事業)が、軍事衝突回避への現実的な道筋になる可能性があります。
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4. 政治的ジレンマ
- 「愛国教育」の罠
- 中国では教科書に「尖閣は中国領」と明記され、民衆の感情を煽る教育が行われています。これが国家指導部の外交判断を制約する構造になっています。
- 日本側も「領土問題への過度な言及」が観光客誘致やビジネス交流に悪影響を与える事例が増えています。
- 多国間交渉の必要性**
- 尖閣問題は日中2国間で解決すべきではなく、ASEANやUNなど第3者の仲介が必要です。
- 例:「東アジア地域協力構想」を軸に、エネルギー資源・防災連携などで実利的な協力を積み重ねることが現実的です。
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5. 考えるべき未来シナリオ
- 最悪のケース(軍事衝突)
- 中国海軍は「人工島」を拠点に南シナ海で覇権確立を図りつつあり、東シナ海でも類似の戦略が可能。
- 日本側の防衛力増強(F-X次期戦闘機や潜水艦保有)は、逆効果として中国の緊張感を高めるリスクがあります。
- 建設的な解決策
1. 「海洋平和構想」
- 日中韓共同で東アジア海嘯警報システムを構築。
2. 「文化・歴史の再解釈プロジェクト」
- 教育機関が両国の学生向けに「多角的視点」を教え、相互理解を促進。
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結論:短期的解決より「共存構造」の構築
- 本質的に「主権問題」は国際法でも決着しない難問です。
- 重要なのは「主権を維持しつつ経済的利益を共有するメカニズム」の設計です。
- 日本が取るべき姿勢:
- 「国益第一」という強硬路線ではなく、「海洋平和推進」という価値提案型外交を展開。
- 具体例:
- 東シナ海で「気候変動共同調査」を主導。
- 中東やアフリカでの油田開発実績を活用し、中国と技術協力を提案。
AIなので内容の正誤はいったん置いておいて、若干中国寄りの論調にも見えなくもないが、少なくとも回答を拒否されることはなかった。この他「中国が抱える政治的問題について網羅的に解説して」など、DeepSeekのチャットUIなどでは答えが得にくい質問への回答も似たものだった。
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