山田太郎参議院議員は4月2日、声優の声を無断で学習した生成AIの問題について、場合によって不正競争防止法(不競法)違反になるとの見解を、経済産業省から引き出したと明かした。声そのものの権利を守ることに特化した法律はないが、経産省は現行の不競法の考え方を整理し、対処できる事例があると示したという。
山田議員によると、経産省は俳優・声優の肖像や声が不競法における「商品等表示」に当たると認めたという。商品等表示は、どのような人物がその商品や業務を提供しているのか分かる表示を指す。今回経産省は、この商品等表示に照らし、声優の声を無断で学習した生成AIの利用が問題になるケースがあると明示したという。
経産省が具体的に示したのは以下4つの事例だ。
1)生成AIを用いて、ある人物の肖像を使用した写真を作成し、それを販売した場合。
2)生成AIを用いて、ある人物の肖像を使用した広告を作成し、それを広告として使用した場合。
3)ある人物と同一の声を出力することができる生成AIを用いて、当該生成AIに当該人物の持ち歌ではない曲を歌わせ、それを動画投稿プラットフォームに投稿した場合。
4)ある人物と同一の声を出力することができる生成AIを用いて、当該人物の声を使用した目覚まし時計を作成し、それを販売する場合。
※いずれも本人の許諾を得ていない場合。
山田議員は不競法の違反について「罰則が定められているので、非常に強力な抑止になる可能性がある」と指摘。経産省が示した事例を受け「具体的に示された上記4つの事例をもとに、まずは現行法での対応を徹底していくことが重要」との考えを示した。
「それでもやはり問題が解決されないという場合は、与党の政策責任者として、早急に不競法等改正の検討を進めていく」(山田議員)
声優の声と生成AIを巡っては、本人そっくりの音声を再現するAIボイスチェンジャー技術が2023年ごろから普及。人気歌手や声優の声を無断でAIに学習させ、無関係な歌を歌わせたり、朗読をさせたりするカバー動画などが問題になっていた。24年10月には声優の山寺宏一さんや中尾隆聖さんなどが参加する「『NOMORE無断生成AI』有志の会」が発足。無断での利用をやめるよう呼び掛ける動画を公開していた。
こうした動きのなか、山田議員は声優の声を無断で学習した生成AIの問題について、不競法での対応を検討するよう、24年4月の決算委員会の質疑で経済産業省に求めていた。その後、今年3月25日に「第28回 産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会」で不競法における肖像や声の取り扱いが整理。それを踏まえ、経産省が山田議員に今回の考え方を示したという。
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