一方で、検証自体はさまざまな業務で進んでいるという。具体例として、24年度の技術検証で実用性を確認した「補助金情報の自動審査」を挙げた。
これは「補助金に関するテキスト情報をAIに入力し、補助金情報ポータルサイト『J-Grants』にその補助金を掲載すべきかの判断と理由付けを自動生成する」仕組みだ。これにより、人手による判断のばらつきを抑え、補助金情報の掲載判断を効率化しているという。
「法案作成時の大量の法令検索作業」の自動化も進んでいる。これまで担当者が単語や構文で法令検索した後、1件1件内容を確認していた作業をAIが代行。法令の名前や公布年月日などが取得できるAPIと組み合わせたこの仕組みは、23年度に調達したSaaSサービスの新機能として開発が進んでいるという。ChatGPTの「deep research」など、AIによる調査機能が流行する背景も踏まえ、事業者による「日本の法令に特化した“deep research”」の実装も支援していく方針だ。
テキスト生成AIとプロンプトテンプレートを組み合わせた業務効率化も実証している。「文章作成業務をアサインされたての不慣れな職員でも、それなりの品質のものを高速に作成できる」効果が確認され、「文章作成・チェックにかかる時間を大幅に削減」できるという。
マルチモーダルなAIを活用した取り組みとして「会議録の自動生成システム」も検証を進めているという。会議を録音し、文字に起こした上で議事録形式に整形する一連の流れをAIが担う。「ホワイトボードに書き殴った文字の認識」や「チャット履歴からのFAQ自動生成」「人事規定などのマニュアルをRAG(検索拡張生成)技術で検索可能にする」仕組みも進行中だ。
さらに「大量の文章をラベリングする業務」の効率化も期待されている。「AIが事前にラベル付けした状態で人間が確認すると作業効率が上がる」という。また「AIのラベリングに応じて文書を並び替えると人間が理解しやすくなる」など、AIが人間の作業を補助する形での活用も検証されている。
「個々のAIツールは素早く作れるが、実際の業務プロセスに組み込み、継続的に改善する体制づくりが課題だ」と森参事官は指摘する。特に「もともとのマニュアルに足りない項目を追加して精度を上げる」運用段階での改善プロセスも重要だという。
デジタル庁はAI活用の「実証から実装」への移行を進めているが、課題も残る。森参事官は「25年度中には実装段階に入るが、安全性の確保が優先事項となる」と指摘する。AIシステムと行政の既存システムとの連携においては、個人情報保護やセキュリティ確保が重要視されている。
こうした課題に対応するため、デジタル庁は「生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を3月に公開、5月中に運用開始する予定だ。このガイドラインでは、各府省に「AI統括責任者(CAIO)」を設置し、省庁横断のガバナンス体制を構築すると定めている。省庁業務サービスグループの北神裕参事官は「規制強化ではなく、利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めることが目的だ」と説明する。
ガイドラインには「高リスク判定シート」や「調達チェックシート」「契約チェックシート」といった実務的なツールも含まれる。AIの利用者の範囲、業務の性格、機密情報の取扱い、出力結果の確認プロセスといった観点から、リスクレベルを判断する仕組みだ。
一方で、技術の進歩は速い。北神参事官は「今後はテキストだけでなく、画像やAIエージェントなど、技術の動きに合わせて柔軟に改定していく」と述べている。この試みを通じて政府全体のデジタル変革を進める考えだ。
「23年、24年と検証を重ね、ユースケースが出てきた」と森参事官。AIの精度と安全性のバランスを見極めながら、行政サービスにおけるAI実装の具体化に取り組むという。
【訂正:2025年5月7日午後5時10分 デジタル庁によるAIプラットフォームの利用時期に誤りがあったので訂正しました。】
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