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米IT企業で続く大規模リストラ 「その原因は生成AI」は本当か? 人員整理の理由を探るマスクド・アナライズの「AIしてま〜す!」(2/3 ページ)

» 2025年08月05日 12時00分 公開

 さらに米IT企業では人事評価によって、成績に悪い従業員に退職勧告を出すのが通例となっています。そもそも各社は従業員を数十万から100万人規模で抱えており、入社する人数も膨大です。このような人材の入れ替えは、定期的なものです。結果としてリストラの要因としては挙げられる理由も生成AIだけに限定されず、コスト削減や景気後退の備え、株主対策(株価上昇や利益確保)が上位に並びます。

 もっとも、生成AI以前の2010年代前半における第三次AIブームの頃から、リストラに対する懸念は登場しています。13年には米オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が発表した論文「雇用の未来」において、将来消える職業が挙げられました。

 しかし、10年以上経過してた現実にて、ここで紹介された職業は仕事は無くなっていませんし、人余りでリストラもされていません。とはいえChatGPTが発表された22年11月以降に、AIリストラの話題は増えました。日本語における「AIリストラ」の検索結果数は増えており、生成AIの性能向上によってリストラが現実として想像しやすくなったためでしょう。

 それでも、不安や恐怖という心情的なものであり、生成AIを主な理由にしたリストラは起きていません。

検索数の推移

 こうした背景があるにもかかわらず「生成Aのせいでリストラ! 日本も危険!」と叫ぶ人がいます。生成AIが企業で普及する中で、「生成AIを使いこなせないとクビになるのか?」と不安に思う人もいるでしょう。では生成AIを身につければリストラされず、将来に渡って仕事とお金に困らないのでしょうか?

「生成AIを理由にリストラ」は非現実的

 生成AIが今後10年間において進化を続けて社会に普及するのは、確実でしょう。しかし「生成AIを学べばリストラされない」という点は、根拠も保証もありません。そもそも10年後の生成AIや社会の変化について、正確に予想できる人はおらず、専門家や研究者でも予測は難しく意見が分かれます。

 ましてや流行に乗って生成AIを話題にして注目を集めるだけの人による予測は「思い付き」や「ポジショントーク」の可能性もあります。このように生成AIに対する不安はあれど、10年後もリストラされずに仕事とお金に困らない方法はありません。しかしこれでは答えにならないため、将来において仕事とお金で困る原因となる、企業のリストラについて考慮してみます。

 リストラの大きな理由としては業績低迷や、事業環境の変化があります。さらに従業員の都合としては年齢を重ねるとリストラ対象になりやすくなります。そもそも会社や外部環境の変化のみならず、10年経過すれば本人の健康状態や家庭の事情も仕事に影響します。それを生成AIを学ぶだけで回避できるほど、単純な話ではありません。

 また、雇用情勢は米国と日本で異なります。米国は企業業績が好調でも従業員を解雇しますが、日本で大規模なリストラを行うのはよほど業績が悪化した場合に限られます。解雇規制に加えて割増退職金や再雇用支援などを考慮して、従業員から訴訟リスクなども含めると相応の負担があるため、簡単に数千〜数万人規模のリストラはできません。

 さらに早期退職の募集をかけても人数が集まらなかったり、辞めてほしくない人材が辞める影響もあります。それなら生成AIが使えない人材をリストラする前に、生成AIを習得してもらう方が現実的でしょう。つまり「生成AIを理由にリストラ」という展開は、非現実的です。

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