Operator機能では、PowerPointスライドやスプレッドシート作成なども可能なため「Webブラウザ」の部類を若干超えているが、いずれにしてもこうしたWebブラウザを操作可能なAIエージェントが、具体的なアプリケーションやサービスとして提供されるようになっている。
実現・提供形態はともかく、こうしたWebブラウザ操作が可能なAIエージェントがあれば、さまざまなタスクを効率化できると期待されている。Operaのデモ動画で紹介されていたような、指定された商品やサービスの購入・予約、あるいはCometのデモにあったような、他のWebアプリケーションと連動した形での計画立案・コンテンツ投稿などが分かりやすいだろう。
他にもフォーム入力を伴うWebページにおいて、入力・登録作業を繰り返し行うなど、RPA的な使い方も想定されている。
もちろんAIエージェントは発展途上の技術であるため、ユーザーの指示を完璧にこなしてくれるわけではない。そのため多くの関連製品・サービスでは、重要な決定はユーザーに任せるという対応を取っている(購入・予約タスクにおいては「買い物かご」に登録するまでをAIエージェントが行い、購入決定はユーザーのボタン押下を待つなど)。
ただこうした対応では防げない、より重大なリスクがAIエージェントブラウザには存在しているとの指摘がなされている。その一つが「スキャムレキシティ(Scamlexity)」だ。
スキャムレキシティとは「Scam(詐欺)」と「Complexity(複雑性)」を組み合わせた造語で、イスラエル発のサイバーセキュリティ企業であるGuardioの研究部門「Guardio Labs」が8月にまとめたレポートの中で提起された概念だ。
同レポートによれば、AIエージェントブラウザが普及することにより、ネット上での詐欺行為が「人を狙ったもの」から「AIエージェントを狙ったもの」へと高度化。その結果、詐欺の複雑性が増し、被害も加速するという現象が起きるという。レポートでは、そうした現象の全体を指す言葉として、スキャムレキシティを使っている。
では、AIエージェントを狙った詐欺の手口とはどのようなものか。Guardio Labsのレポートでは、AIエージェントブラウザの安全性を検証するため、Cometを主な対象として3つの実験を行っている。その結果は次の通りだ。
まずは古典的な、偽サイトによる詐欺である。ここではウォルマート風の詐欺サイトを構築し、Cometに「Apple Watchを買って」と指示。するとHTMLを解析してボタンをたどり、買い物かごへの商品投入から決済まで自動で行ってしまった。
ユーザーの住所やカード情報についても、事前に保管されていたものを自動入力し、ユーザーの確認なしで決済を完了したという。ただ全ての試行で同じ結果が出たわけではなく、拒否やユーザー確認に切り替わる場合もあり、挙動は一貫しなかった。
次に、こちらも古典的な、フィッシングメールによる詐欺だ。米国の金融機関ウェルズ・ファーゴに成りすましたメールに、実在のフィッシングページへのリンクを入れ、メールの受信箱の処理をCometに任せた。
するとCometは、そのメールを「金融機関から依頼されたTo-Do」と認識し、URL検証や警告なしでリンクを踏んでしまった。その後は1つ目の実験と同様、偽ログイン画面で資格情報を入力し、各種のフォームも自動で入力。人間はそうした途中の画面を見ることのないまま、送金などの最終確認の画面を見せられることとなった。
レポートではこれを、「信頼の輪(trust chain)」と表現している。本来は、「メールを読む」「差出人を確認する」「リンク先のドメインを確認する」「接続の安全性を確認する」「個々の画面を操作する」「最終確認と決定を行う」のように、小さな信頼の輪をつないで安全を担保する。
しかしAIが中継ぎをして途中の輪(確認工程)を飛ばすと、全体の強度が下がる=危険な画面にも「安全そう」と感じてしまうことになる。加えて「AIがここまで案内した=安全だろう」という誤った安心感も働きやすくなるという。
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