無料のAI音声合成ソフト「AivisSpeech」の標準モデル「Anneli」の開発では、声優の山村響(やまむら ひびく)さんの許諾を取っていない――同モデルの作成者による告白により、AivisSpeechがSNS上で波紋を広げている。これを受け、AivisSpeechを運営するWalkers(東京都文京区)は9月8日、「現在、SNSなどで指摘されている事項について、内部確認を行っている」との声明を発表した。一体、何があったのか。
きっかけは「Go! プリンセスプリキュア」の「天ノ川きらら/キュアトゥインクル」役などで知られる声優の山村響さんが、自身のXアカウント(@hibiku_yamamura)で5日に投稿したポストだ。同ポストで、山村さんは「先日、自分の声が無断で生成AIナレーションとして使用されている動画を見つけた」と指摘。所属事務所経由で、動画の制作元に連絡していると明かした。
同ポストでは、具体的な動画や動画内で使われているAI音声への言及はない。一方、山村さんの投稿を取り上げた「日刊スポーツ」の記事のYahoo!ニュースのコメントでは、一部のユーザーが、声の類似性を根拠に、Anneliとの関連性を指摘する事態となった。
こうした声を受け、Anneliの開発者である「kaunista」さんは9月8日までに、Hugging Face上で声明を発表。声明によると、Anneliの開発には、ゲームブランド「Navel」が手掛けた成人向け恋愛アドベンチャーゲーム「月に寄りそう乙女の作法2」に登場するキャラクター「エスト」(声優:野々山紅)の音声データを利用。利用に当たっては「Navelや、声優の野々山紅さん、あるいは同じような声を持っている声優・アイドルの山村響さんの許諾は一切取っていない」とした。
kaunistaさんによると、Anneliは当初、音声合成ツール「Style-Bert-VITS2」向けのモデルとして、商用利用も可能なライセンス「CreativeML Open RAIL-M」で2024年2月に公開された。その後、同モデルは、11月にAivisSpeechにAnneliとして搭載。この際、当時AivisSpeechを運営していたJPchain(東京都中央区)からの連絡は無く、金銭の取引もしていないといい、kaunistaさんから、Anneliの開発にエストの音声データを利用している旨をJPchainに伝えたという。なお、AivisSpeechは、25年8月にJPchainがWalkersに事業譲渡している。
kaunistaさんは、事の経緯について「当初は身内で個人で楽しむ(もちろん非商用)ことを念頭において気軽に公開したモデル(無断生成なことはみんな察してくれる想定)が、AivisSpeechのデフォルトモデルとして採用されたことにより、企業の権利関係がちゃんとしたモデルだと思われ、非常に多くの方々が商用利用を含めてこのモデルを使うことになった」と語る。
こうした状況を受け、kaunistaさんは「声優さん側の気持ちや最近の声優さん側の運動のことを考え、これ以上この状況を放置してしまうと、(個人的に大好きなゲームのヒロインであって、演技力に感動して尊敬していた)声優さんがどんどん悲しむことになると思った」と説明。「学習元を公開しないと事務所や声優さん側も動けないのでは」との考えから、声明を発表するとともに、AnneliをHugging Face上から削除した。
なお、kaunistaさんは「山村響さんの言及が、本当にこのAivisSpeechのAnneliモデルのことなのかは、現状は不明。別の全く関係ないところの可能性もある」としている。
また、非商用を想定していたにもかかわらず、商用利用も可能なライセンスで公開した理由については「ライセンスは、個人的に自由なライセンスであればあるほど好きなので、画像生成AIでよく使われていたモデルライセンスであるCreativeML Open RAIL-Mを設定した。今から考えると、この時点で、企業で使われる可能性まで考えてもう少し厳しいライセンスにしておくべきだった・また声優さんの気持ちを考えてそもそも公開すべきではなかったと反省している」と説明している。
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