小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
“AIが国家運営を左右”する時代がやってくる? 注目の「ソブリンAI」とは何か、“4つの要素”で解説(2/4 ページ)
第1の要素は、「国内に置かれたインフラ上でAI技術を開発する能力」だ。データセンターやクラウド基盤、GPUクラスタなどを含むインフラが、物理的・論理的に自国の主権の及ぶ領域にあり、自国の法制度の下で運用されていることが前提になる。この点が欠けると、どれほど高度なAI研究者を抱えていても、肝心の計算資源やホスティング環境が他国企業に握られている構図から抜け出せない。
第2の要素は、「ローカルなデータと人材に基づいてAIを開発すること」だ。デール教授によると、主権AIとは、自国で育成された研究者・技術者が国内で収集・管理するデータでAIを開発している状態を指す。
これは単に自給自足を目指すというより、外国の法規制やデータ利用慣行に左右されず、プライバシー保護や文化・言語的な表現を自国の価値観に沿ってAIを設計するためだ。特定の国の言語・教育・公共サービスを信頼できる形で支えるAIを開発するには、その国のデータと人材が中核になる、という発想が前提にある。
第3の要素は、「外国プラットフォームや多国籍企業への構造的な依存からの自由」だ。デール教授によれば、主権AIは、海外企業が支配するプラットフォームやサービスに依存せずにAI技術を開発・運用できる状態でもある。
ここで問題なのは、特定の国外プレイヤーが基盤モデルやクラウド、チップといった重要なレイヤーを独占すると、国家の安全保障や経済安全保障、規制の自律性、長期的な経済競争力が損なわれる点だ。他国の輸出管理や企業戦略により、自国のAIインフラやサービス提供が左右される状態から抜け出すことが、主権AIの重要な動機付けになっている。
第4の要素は、「AIライフサイクル全体のコントロール」だ。主権AIとは、データの収集やモデルの訓練、システムの展開、AIのガバナンス・監督に至るまで、各段階を自国の判断で制御できる状態でもあるという。
従って、単に自国内でAI用データセンターを運営するだけでは不十分となる。どのデータをどう集めるか、どのような目的でモデルを学習させ、どのような責任枠組みや説明責任のルールの下で運用するか、といった「上位のルール作り」まで含めて、自国が主導権を持つことを意味する。
このように主権AIとは、単なる国産LLMの開発を指す言葉ではなく、1)国内インフラ、2)ローカルなデータと人材、3)国外プレイヤーからの自律、4)ライフサイクル全体の統制、の4つの要素が重なり合うことで初めて成立する。かなり強い意味での「主権」の概念として理解できる。
企業でも「主権AI」を追求、理由は?
主権AIは、基本的に国家レベルで追求する概念だ。しかし最近は、企業レベルで「主権AIを掲げる」もしくは「主権AI的な施策を採用する」動きも数多く見られる。これまでも企業は漫然とAI導入を進めてきたわけではない。「AIガバナンス」という言葉のもと、さまざまなリスク評価と軽減の取り組みを検討してきた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia AI+に関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「トイレ」に凝ったらAI需要で大躍進――TOTO、利益の7割かせぐ「半導体」ビジネスの正体
-
2
設計図面や熟練技術者のノウハウをAIで活用、リコーと川崎重工が連携
-
3
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
4
損保ジャパン、2万人の「Gemini活用」どう管理? 推進者が語る「リスク回避」の仕組み
-
5
[Python]これなら分かる「uv」入門:pip+venvやcondaから最速で乗り換えよう
-
6
「海外モデルでも自前サーバで動かせば100%安全」ではない――チームみらい安野氏が指摘、国産モデルの必要性を強調
-
7
深刻な「中国依存」を脱せるか 老舗問屋が動いた「空気を使った肥料づくり」とAI農業とは?
-
8
OSSは「プルリクエストを送る」から「自分用に直す」へ? AI時代のメンテナーがPR受付を閉じると宣言した理由
-
9
人手不足だからAIを使いたい、でも導入できる人がいない 中小企業“一人情シス”の葛藤
-
10
「世界最高水準」の性能うたう翻訳LLMをオープン化、PFN 0.8~31Bの4サイズ オンデバイスにも対応
SpecialPR
ITmedia AI+ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmedia AI+をフォロー
あなたにおすすめの記事PR