セミナー資料は、海賊版利用が30条の4但書に該当する根拠として以下の点を挙げています。
「海賊版は正規版と比較して収集(ダウンロード)後の複製も簡単な可能性があり、その分AI学習にも利用しやすいかもしれない」
しかし30条の4柱書但書の該当性については、「考え方」23頁において以下のように述べられています。
「本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要と考えられる」
すなわち、但書の判断基準は「著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するか」です。
「AI学習に利用しやすいかどうか」は、この判断基準とは無関係です。情報解析(AI学習)のための利用行為は、非享受目的利用として30条の4の本文で原則適法とされている行為そのものであり、「利用しやすいから但書に該当する」という論理は成り立ちません。
海賊版をAI学習目的でダウンロードして利用したからといって、それ自体で著作物の利用市場(著作物の販売市場)が害されるわけではありません。AI学習に利用すること自体がそもそも著作物の享受には当たらないためです。
もちろん、「考え方」が但書の該当例として挙げている、「情報解析用に販売されているデータベースの著作物」を情報解析目的で無断利用する場合のように、著作物の利用市場との衝突が認められる場合はあり得ます。
例えば、将来的に「漫画コンテンツ生成学習用データセット」が市場に流通するようになれば、当該データセットを権利者に無断で入手してAI学習に利用した場合は30条の4但書に該当する可能性があります(考え方24頁)。しかし、それはあくまで「利用市場との衝突」の問題であり、学習対象が海賊版であること自体が但書該当の根拠となるわけではありません。
また、海賊版データを用いて、学習データと同一の著作物を容易に出力できるような特殊な学習(過学習など)を行うのであれば、著作物の利用市場は害されます。しかし、その場合は但書を持ち出すまでもなく、そもそも享受目的が併存するため30条の4の本文が適用されません。但書以前の問題です。
この点については、「考え方」28〜29頁において、海賊版サイトからの学習データ収集に関する記載がありますが、同記載は「少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行うことを目的として行われる場合」について述べているものです。
これは「享受目的の併存」の問題であり、海賊版特有の問題ではありません。学習対象著作物が海賊版であることと、表現出力目的の有無は別問題だからです。つまり、海賊版だろうが正規版だろうが、「少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行う」ための著作物の利用には30条の4は適用されません。
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