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2004年、カンブリア紀のような進化の爆発が起きたネットベンチャー3.0【第4回】(3/3 ページ)

» 2006年08月18日 11時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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「荒らし」を防ぐノウハウ

 ノウハウの中心は、暗黙知を利用者からうまく引き出し、それらを受け手の側にうまく送り込むモデルの構築方法である。だがそれだけではなく、「荒らし」と言われるようなノイズを、掲示板からどのように排除していくのかという手法も含まれる。オーケイウェイブはそのノウハウのかなりの部分をアルゴリズム化することによって、うまくビジネス化することに成功した。たとえばひとつの回答を取ってみても、わずか10文字程度しか書かれていない書き込みや、文の最後に句点がつけられていないような書き込みは、荒らしの可能性が高い。そうした統計的な荒らしのパターンを数値化して排除し、それでもどうしてもグレーにしかとらえられないような書き込みに関しては、スタッフがチェッカーソフトを使って手作業で最終判断を行うといったシステムを作った。これによって少人数かつ経験の乏しい運営スタッフであっても、マニュアルをもとにかなりの部分まで荒らしを排除していくことに成功したのである。こうしたノウハウは、オーケイウェイブが6年近くも苦闘し、掲示板の維持を行ってきた成果でもあった。(編集部注:関連記事

 さらにいえば、オーケイウェイブが突如としてブレイクした背景は、蓄積されたノウハウだけではなかったと思われる。時代状況も含め、その他のさまざまな要因もからんでいたのだ。たとえばブログの登場によるインターネットの双方向化や、ブロードバンドの普及。さらにはRSSや検索エンジンなど、あらたな「アテンションエコノミー」を培うサービスや技術の登場もあった。そうしたインフラの整備を背景にして、「個人と個人を結ぶ」という動きが生じてきた。その動きが、最終的にWeb2.0というコンセプトへとつながっていったということなのではないだろうか。そう考えれば、2004年のカンブリア紀の進化の爆発は、ある種の必然だったのだろう。

 話を戻そう。オーケイウェイブが蓄積した質問と回答をベースにしたナレッジは、単体のデータベースとしてオーケイウェイブのサーバに保存されている。現在、ソリューション事業として約150社にFAQ管理ソフトを提供し、また40社のポータルにOKWaveの質問回答サービスをOEM提供しているが、これらに蓄積されているナレッジはたったひとつのデータベースとなっている。それぞれのクライアント企業にシステムを納入するのではなく、ある種のハブモデルを構成しているのである。

兼元社長が見るWeb2.0の未来像

 「アプリケーションを提供するASPではなく、サービスを提供するSP(サービスプロバイダ)のような形。ASPはシステム管理だけを提供しているが、われわれは運営管理も引き受けており、もうひとつ上のレイヤーまでビジネスとしてカバーしている」(兼元社長)

 Web2.0モデルが登場するころから、インフラと呼べるレイヤーは徐々に上位に上がって来るようになった。従来であれば物理的な回線やTCP/IP、あるいはOSなどのプラットフォームがインフラと考えられていたが、いまやその上のアプリケーションレイヤー、サービスレイヤーが事実上のインフラになりつつある。検索エンジンやSNSが集合知のインフラとなりつつある状況を見れば、それは明らかだ。その枠組みで考えれば、オーケイウェイブも質問回答を中核にした集合知モデルを提案し、そのモデルをインフラとして広めようとしていると言っても良いのではないか。

 「人がさまざまな質問を投げかけたり、誰かの質問に答えたりといった行動をしていれば、その行動の蓄積そのものが自動的に巨大なデータベースとなっていく。人の行動はアルゴリズムにまさる行動規範になる可能性があって、われわれはその部分にWeb2.0の将来像を見ていきたい」と兼元社長は語る。

 振り返ってみれば、彼は2002年のころから「専門家の知見と、専門家ではない普通の人々が積み重ねた経験による知は、これから同等になっていく。経験値を持っていれば、専門性や資格を持っていなくとも、同じだけの価値を持てるようになるはずです」と力説していた。いま思い返してみれば、その先見性は驚くばかりだ。なぜならその考え方は、「『みんなの意見』は案外正しい」という集合知のコンセプトそのものだからである。

 近くにいる料金の高い専門家ではなく、地球の裏側のブラジルに住んでいる人たちの知を利用できるようになる。ごく少数の専門家の意見ではなく、多くの人々の知の集合体によって新たなナレッジが形成されていく。そうしたナレッジを形成するプロセスこそが、これからの知の時代における新たなインフラになっていく――兼元社長の提示してきたのは、要するにそのようなモデルであり、それはWeb2.0の本質以外のなにものでもない。

(毎週金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)など。


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