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» 2006年10月10日 12時30分 UPDATE

金融・経済コラム:ロックアップ条項を廃止すればIPOバブル終焉可能……? (2/2)

[保田隆明,ITmedia]
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主要株主が売りたいなら上場時に売却すべき

 なるほど、それならやはりロックアップ条項は必要か、ということになりますが、しかし、売却をしたいのであれば、最初から上場時に売却しておけばいいのです。そうせずにわざわざ上場後に市場で売却をする理由は、(1)市場での株価上昇を狙いたい(売却益が増える)、(2)上場時に売却される株数が多すぎると需給関係が悪くなり、いい初値(公募価格を上回る初値)がつかない可能性がある、の2点です。

 しかし、両方とも当事者の事情によるものでしょう。それよりは、ロックアップをなくしてしまい、売りたい主要株主は上場時に売るようにして、IPOバブルで高値掴みをする犠牲者を出さないようにした方がいいでしょう。

ネットエイジ、ミクシィ:ロックアップがなければもっと高い初値が?

 さて、こうした流れを受けてか、ネットエイジ、ミクシィの上場時にはロックアップ条項が付きませんでした。もともと両社の株は人気銘柄であり初値の暴騰が予想されましたので、ロックアップ条項を付与しないことで「主要株主が上場直後に売ってくるかもしれない(株価の下落要因)」という警戒感を与えることで、人気の過熱感を抑える役目があったかと思われます。または、主要株主の誰かがどうしても上場後に市場に売却したいと主張したのか…?(ロックアップ条項が付与されなかった詳細な理由を私は知りません)

 実際のところ、株式投資関連の掲示板では「ロックアップ条項がないので、初値が付いた後の株価下落要因となり危険だ」というような書き込みも散見されました。

 しかし、ネットエイジ、ミクシィの初値は公募価格の約2倍となり、まさに人気銘柄となりました。その理由としては、株式購入者が以下の3つの状況のどれかにあったと思われます。

  1. 売りたい主要株主は上場時にすでに売っているだろう(ロックアップがないからと言ってすぐに売りを浴びせるような主要株主は存在しないだろう)と思っていた
  2. ロックアップの有無についての知識を持っていなかった
  3. 公募価格の2倍でも安いと思った

本来であれば賞賛されただろうネットエイジ、ミクシィのロックアップなし上場

 さて、そんなネットエイジ、ミクシィの株価ですが、ロックアップ条項がなかったがゆえに主要株主の一部が上場直後から大量の株式を売却し、それが株価の下落要因になっているというのが先週の日経新聞の記事の内容でした。この事象からは「やっぱり、ロックアップ条項は必要だ」という議論になりそうな気もします。

 しかし、果たしてそうでしょうか? ロックアップ条項が存在すれば、上述しましたように初値はもっと暴騰していた可能性があります。確かにその後の株価の急落は主要株主の売りがなければ発生はしていなかったかもしれませんが、しかし、それはあくまでもロックアップ条項があった場合は上場後180日以降に起こっていただろうことであり、単にタイミングの違いでしかありません。逆に、ロックアップ条項がなかったことにより、そして主要株主が売却したことで、無用なIPOバブルを抑え込んだともいえるでしょう。

卑怯な大株主、でも、アッパレの一言

 では、今回のネットエイジ、ミクシィの株式公開、ロックアップ条項なしで褒められたものかというと微妙でしょう。というのは、結局、得をしたのは、IPO時の抽選に当選し公募価格で株式を購入することができたラッキーな一部の人達と、見事市場で高値で売り抜けた主要株主の一部だけだからです。上場後に血気盛んにこの両社の株式を購入した人達の大半は損失を抱えている状態です。

 さて、IPOの抽選に当たる人達ってどんな人達でしょう。最近では完全に公平な抽選にしていると謳っている証券会社もありますが、基本的にはこのような儲かる話は上客にしか回らないものです。つまり、IPOバブルで潤っているのは証券会社のお得意様だけです。そして、そのお得意様が稼いだ利益を更に追加の株式投資に回してくれれば証券会社も更なる売買手数料で儲かる、そのウラでは一般個人投資家が死屍累々というなんとも素敵な状況ができていたわけです。

 それに加えて今回は主要株主が大儲けしたのです。上場直後に売って、市場を混乱させる(株価を大きく下落させる)のであれば、もともと上場時に売り出しておくべきでしょう。そうでないと投資家に大きな迷惑をかけます。特に新興市場に上場する場合、主要投資家は個人投資家が多く機関投資家に比べてリテラシーが高くありません。であれば、なおさら市場に混乱を与える行為を行ってはいけないのです。

 「べき」論で言えば、今回の2社の上場では、上場直後に売却した株主も上場時に株を売却しておき、そもそもの売却株数を増やすことで初値の暴騰を抑える、そして、IPOバブルの犠牲者を減らすというのがあるべき姿でした。しかし、主要株主にも自社の株主やファンドの投資家がいるでしょうから、彼らの利益を最大化するという意味では、今回の主要株主の行動は十分に責務を果たすものであり、あっぱれ、の一言でしょう。

ロックアップを廃止すれば、IPOブーム過熱は解消できる…?

 さて、今回の件では、「やっぱりロックアップ条項がないから株価が急落したじゃんよ!」という、ロックアップ条項復活論の方が高いようです。しかし、ロックアップを続けていても、IPOバブルと犠牲者を続々と生み出すだけです。もちろん一方、自らがIPO株の当選者となって利益を稼ぐ可能性もありますので、そちらに目を取られる方も多いでしょう。しかし、上述しましたが、利益を得られるのは証券会社の上客が中心なのです。

 ロックアップ条項がなくなれば、今回の2社の件を記憶する投資家は、今後ロックアップが付与されていない上場株には警戒するでしょう。そういう流れが広まれば自然とIPOバブルは収まっていくのではないかと思います。また、今回、上場直後に株式を売却した主要株主への風当たりはさほど強くはないようですが、この当たりも本来であれば、健全な市場運営のためには証券取引所なりが指導を入れるべきものでしょう。

 今回の2社のロックアップナシ上場は、偶発的な形であるものの、ロックアップの廃止という形で適正なIPO環境の形成が可能という可能性を見せてくれたのではないかと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)。『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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