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モバゲーのすごさは意外なところに……?金融・経済コラム

» 2007年02月13日 12時45分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 先日、担当している経済系のテレビ番組で携帯クーポン、携帯ポイントの話題を取り上げ、その中のひとつの事例としてモバゲータウンを取り上げました。

 インターネットサービスや携帯サービスは、パソコンや携帯電話の画面の中で出来事なので、なかなかテレビで取り上げにくいという特性があります。というのは、何らかの現象や出来事であれば、その現場に取材に行くことができて、テレビの中で動きを見せることができます。一方、パソコンや携帯の場合は、画面を映すだけでは動きに乏しく、たとえ画面内でいろいろクリックして画面を遷移したとしても、やはり視聴者にはその動きが分かりづらいという悩みがあります。

 よって、インターネット、携帯サービスがテレビで紹介されるのは、相当ブームが大きくなってからというのが一般的です。mixiも今でこそ各方面で取り上げられるようになっていますが、テレビでは、mixi上場前まではそんなにバンバン取り上げられたわけではなかったので、テレビだけではmixiが2006年の流行語やヒット商品番付にランクインしていたことは分からないと思います。そういうギャップがあります。

 さて、そんな中、モバゲータウンを番組で取り上げようという私の提案に対して、番組関係者ではモバゲーを知っている人はほとんどいませんでした。しかし、ディレクターさんが、「面白そうじゃん、それやろうよ」と言ってくれて番組で取り上げることになりました。しかし、番組前も番組後も“What is モバゲー”を説明するのは大苦労。

 「中高生を中心にすごい流行っています、ゲームが無料でたくさんできて、日記もかけて、コミュニティーもたくさんあって、携帯版SNSです」(関連記事参照)

と説明すると、大体の大人の人達は眉をひそめます。

「また中高生がワケのわからないものに夢中になっているのか」

「ゲームってオタクじゃなくて?」

「日記? コミュニティー? よくあるネットサービスと一緒じゃん。今更新しくない」

という反応です。そして、

「で? 携帯ポイントはどうやって盛り上がっているの?」

と聞かれたので、

 「あ、サイトの中に広告が表示されているんですが、それをクリックするとポイントがもらえるんですよ。あとは、サイトに友達を連れてくるとそれでもポイントがもらえます。で、その溜まったポイントで自分のアバターにいろんなアイテムを購入することができます」

と答えると、先ほどまでひそめていた眉がますます「への字」になり、もう完全拒絶。相手はヒキまくっています。特に「アバター」という単語で拒絶反応を起こす人が多いんですよね。これは私もアバターという単語を使いたくはなかったのですが、そうやって説明せざるを得ない。だって、このアバターの着せ替えこそにモバゲーのポイント、モバゴールドが使われるわけですから。

 さて、この完全拒絶状態になってしまった相手に対して、それでもモバゲーはすごいんですというのをどうやって説明しようかと考えていたのですが、

 「あ、そうそう。メンバーは300万人を突破して、メンバー増加のスピードはあのmixiをも上回りますよ」

と言うと、聞いていた相手はちょっと前のめりになってきます。つい先日まではmixiも説明するのが大変だったのですが、やはりmixiが上場をしたこととユーザーの裾野が広がってきて結構使っている人が増えたことにより、mixiのすごさを実感し、それよりも速いスピードでメンバー数が伸びていると聞くと反応してくれます。ただそれでも、まだ眉はへの字です。どうやってそのへの字を直そうかと考えていると、隣から助け舟が出てきました。

「あ、モバゲーってそういえば、最近テレビCMやっているの見たけど、あれ?」

と言うので、

「あ、そうそう。それですよ」

と答えます。テレビ業界の人達にとってはこのテレビCMをやっているというのはグッと親近感がアップ。眉のへの字がもうちょっとで元に戻りそうです。ここでふと気づいたのは、インターネットや携帯サービスでテレビCMをやっているところは実は少ないということです。ネットで流行っていることがテレビで紹介されるまでにタイムラグがあるのと同じように、テレビでCMを打ってもネットでのトラフィック増加にはあまりつながらないということがあると思います。そんな中、テレビCMを打つネットサービスというのは印象に残ります。しかも、他にテレビCMをやっているネット系サービスでは、着うたなどCM内でだいたい何のサービスか分かるものが多い一方、モバゲーのCMは異色で「何のサービスだ?」という印象を残します。

 この、「テレビCMをやっていますよ」という言葉を聞いたときに大人の反応がガラリと変わったのを見て、もしかするとこれはネット系サービスでもやり方次第ではテレビCMも効果を持つということではないかと思いました。

さて、その後また1つ助け舟が入ります。

「モバゲーって南場さんの会社ですよね。DeNAって会社でしたっけ?」

すると、まだ曇った顔をしていた大人の人達は

「え? あの南場さんの?」

と一様に驚き、それなら番組で取り上げるべき題材かもしれないという反応になり、この時点で眉はへの字ではなくなります。

 ネットサービスを売り出す、広めるときに、社長が売りになったのは、ホリエモンやサイバーエージェントの藤田社長が日々書くブログがありましたが、あれらのブログの想定読者は20〜30代ぐらいかと思われます。一方、この「南場社長?!」と前のめりになったのは30〜40代。これはもしかすると、ネットサービスがある程度の初期ユーザーを獲得した後、裾野をネットリテラシーのあまり高くない人達に広めていくときの1つのヒントになるのではないかと思ったのでした。

 つまり、ホリエモンや藤田社長、それにmixiの笠原社長の会社が提供するサービスであれば、30〜40代の人達は自分たちがあまり理解できなくとも、それに使っていなくとも問題ないと思うのですが、一方で、南場社長の会社が提供するサービスとなると、より身近に感じ、かつ、自分たちが理解できない&使用できないという状況に対しては危機感を覚えるようです。

 モバゲーを取り上げましょう、という私の提案、そして実際に番組で紹介した後の番組関係者とのやり取りから、ネットサービスを広めていくに当たってのテレビCMの活用の可能性、そして社長の見せ方、社長の使い方に対して、何か1つ新しい可能性を見出した気がしました。

 結局、経済番組ですので、一番訴求したかったのは、このモバゲータウンで利用されているポイント、モバゴールドが今後換金性を持ってくることを想定しての経済的なインパクト、可能性です。ただ、そこに行きつく前にとりあえずはWhat is モバゲーまでしか紹介できなかったのですが、番組担当ディレクターが試しにモバゲーに登録し、モバゲーのすごさを実感したみたいなので、またモバゲーを取り上げる機会も来ると思います。その時には携帯ポイントが実社会、実通貨に及ぼす影響についても紹介できればと思いながら、テレビCMと南場社長という二つの広告手法、プロモーション戦略にこそもしかするとモバゲーのすごさがあるのではないかと思ったのでした。(関連記事参照)

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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