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レコメンデーションの虚実(7)〜“僕が好きな人”が僕の好みを気に入ってくれるとは限らないソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)

» 2007年10月22日 12時30分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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ソーシャルメディアの可能性を切り開く「SocialFeed」

 この逆転の発想を具現化しているのが、開発途中のソーシャル型RSSリーダーである「SocialFeed」だ。

 このSocialFeedは、リアルコムが今年5月からスタートさせたインキュベーション事業「REALCOM Software Innovation Laboratory」(RSIL)の一環として開発がスタートしたプロジェクト。RSILは、書類選考やプレゼンテーション、面接などを経て認められたプロジェクトに対し、ソフト開発者がリアルコムのアメリカ子会社に赴任し、シリコンバレーで技術やビジネスプランを育成し、地元のベンチャーキャピタルなどから出資してもらうことを目指すというものだ。SocialFeedはこのRSILの第1号プロジェクトとして、今夏にβ版が公開された。

 SociaFeedはまだ利用者も少なく、サービスとしても安定していないが、しかしソーシャルメディアの可能性を切りひらく可能性のある非常に興味深いシステムとなっている。

 通常のRSSリーダーであれば、自分が登録しているサイトの更新情報が最初に表示されるはずだが、SociaFeedのトップページでは更新情報(MY SUBSCRIBED STORIES)は2番目に押しやられ、最上部にはお勧めの記事(SOCIALFEED RECOMMENDATION)が表示されている。勧められている記事をクリックして開くと、ソース元の記事が表示されるのとともに、画面上部には「I Like It!(気に入った)」「I Don't Like This(気に入らない)」「Share With Friends(友だちと共有)」「Post A New Comment(新しいコメントを投稿)」という4つのボタンが表示される。

 “わたし”や“誰か”がどのような好み、志向を持っているのかをできるだけ正確に計測することが、ソーシャルレコメンデーションの世界では重要な要素となる。SocialFeedでは、この計測を2段階で行っている。まず第1に、“わたし”や“誰か”がどのようなブログやサイトを購読先として登録しているのかという要素。第2に、個別の記事を読んだ時に、その記事をどう評価したのか――つまり「気に入った」ボタンを押したのか、あるいは「気に入らない」ボタンを押したのかという要素。

 前者の要素を使って、SociaFeedは趣味志向が似ている利用者同士を結びつけ、自動的に「見えないコミュニティー」を形成する。そうしてそのコミュニティーにマッチしたRSSを収集し、“わたし”に対してレコメンデーションを表示する。さらにこのコミュニティー内部でも、第2の「気に入った」「気に入らない」の要素を加味して、個人個人の属性に合わせ、レコメンデーションの正確さをさらに高めるという仕掛けになっている。

システムが結び付ける、知らない誰かとのコミュニティー

 この「見えないコミュニティー」は、可視化されていない。“わたし”と“誰か”は同じ趣味志向を持ち、このため同じ「見えないコミュニティー」に属しているのだが、しかしお互いの存在を明確には認識していないのだ。つまり同じコミュニティーなのに、自分の友人知人だとはお互いに思っていないのである。つまり先にも述べたように、自分と趣味の合う人は必ずしも自分の友人である必要はない。まったく知らないどこかの“誰か”でも全然構わないわけだ。

 そこでこの自分とは関係のないどこかの“誰か”と、“わたし”をうまくひとつの輪としてとりまとめる仕組みとして、「見えないコミュニティー」というものをアドホックに形成していこうというのが、SocialFeedの考え方なのである。

 SocialFeedの開発者である石川雄樹氏は、私の取材に次のように話している。「世の中の人は、自分のコンテキスト(文脈)を複数持っていて、それら複数のコンテキストを切り替えながら情報を使っているのではないかと思います。このコンテキストをデータとして取り出し、利用できないかというのが、SocialFeedのスタートラインでした」

 さらに一歩進んで、SocialFeedではこの仮想的な友人である“誰か”を、自分の本当の友人にすることもできる。トップページの「My Friends」というタグを開くと、「SIMILAR USERS(似ているユーザー)」という表示がある。ここには“わたし”と“誰か”の類似度がパーセンテージで表示されている。“誰か”のユーザー名をクリックすれば、そのユーザーが購読している記事やコメントした記事の一覧、さらにそのユーザーと似ているユーザーの一覧などが表示される。ここから自分の手作業によって、自分と似ているユーザーをさらに探していくことも可能だ。

 そして「似ているユーザー」の一覧には「Add As A Friend」というボタンがあり、気に入ったユーザーを自分の友人として登録することも可能となっている。つまり“わたし”が望めば、コミュニティーを可視化していくことが可能になっている。レコメンデーションのコミュニティーへの参加が、“わたし”の意志に任されているのだ。

 リアルの知人をネット上に転写していくミクシィ的なアプローチではなく、趣味志向の近い人たちを積極的に探し、そこからリアルに知人関係を転写していくことができる。こうしたアプローチは、今後新たなコミュニティーモデル――リアルの友人・知人ではなく、しかし姿の見えない協調フィルタリングの他人でもない、まったく異なる層のつながり相手とのコミュニティー――生み出していく可能性を秘めている。

佐々木俊尚氏のプロフィール

ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)など。インターネットビジネスの将来可能性を検討した『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)を10月19日に上梓したばかり。連絡先はhttp://www.pressa.jp/


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