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レコメンデーションの虚実(14)〜ソーシャルスパムの時代がまもなくやってくるソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)

» 2007年12月17日 11時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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中身の薄いアフィリエイトブログ大量発生の舞台裏

 こうした手法はごく一例に過ぎず、似たり寄ったりのスパム手法はインターネット上にあふれかえっている。自動生成ブログなどもそうだ。例えば「誰でも10万円を軽くクリア」というキャッチフレーズで、「ブログアフィリエイト成功マシーン」というソフトがインターネットで販売されている。Webサイトの説明によれば、「ドラマに出てきた俳優の名前」「ラジオから聞こえてきた曲の名前」などキーワードを指定して作成ボタンをクリックするだけで、自動的に記事を作成してくれるという。利用者はその記事とアフィリエイト広告を自分のブログに貼り付けるだけで良いというわけだ。

 おそらくはソフトがクローラーを放ってWebを巡回させ、利用者が設定した広告キーワードに適合したWebのテキストを、どこかのサイトからコピーしてくる仕組みなのだろう。例えば「自動車」というキーワードを設定しておけば、自動車に関連した記事を探してきてコピーし、自動車関連のアフィリエイト広告とともにブログ上に自動的に貼り付けるような仕組みだ。

 同種の別のソフトを販売するサイトでは、そのものずばりこう説明が書かれている。

 「あなたが手を加えなくとも、ブログなどから配信されるRSSというものを取得して、毎日休まず自動で更新してくれる機能が付いています」「コンテンツの詰まったHTMLを毎日自動で追加していきます」

 さらにこのサイトには、こうも書かれている。「アフィリエイトで手っ取り早く月30万円稼ぐ方法を教えます。その方法は、実にシンプルでとてもパワフルです。それは……『月3000円稼ぐサイトを1000サイト作れば良いんです!』。どうです? 簡単でしょう? 『月3000円稼ぐサイト』というのは、ちょっとコツを知ってしまえば誰でも簡単に作れます。(中略)後はそれを、5サイト、10サイト、と増やしていけば……? そう、あなたの目標であろう『本業以上の収入を、ほったらかしで稼ぎ出す仕組み』というものが出来上がっていくのです。はっきり言いますが、サイトの量産は手っ取り早く稼ぐための唯一の方法です」

 実際、このようなソフトを使って更新したと思われる、非常に中身の薄いブログは、インターネット上に爆発的に増えている。機械的にブログを量産し、それぞれのブログに偶然立ち寄った読者にうっかり広告をクリックさせることで、小さな儲けをたくさん発生させる。要するに「塵も積もれば山となる」であるというWeb2.0のビジネスモデルの上っ面をはぎ取って、実践しているわけだ。

FacebookのFacebook Adsスパム化防止策

 話を戻そう。ソーシャルレコメンデーションは、このスパムをさらにパワーアップさせる可能性を秘めている。例えばFacebook上で無差別にFriend Request(友達になってくださいリクエスト)を送りまくり、OKしてしまった人に対して、自分の行動をデータフィードで送りまくる。「○○さんはAmazonで『Facebookで月収50万円を儲ける方法』を買いました」「○○さんは『情報商材を安価に手に入れる方法』といテキストを自分のWebにアップしました」。うっかり友達になった人たちがこうしたデータフィードに刺激され、商品を買ったり、サービスに登録すると、アフィリエイト広告料は○○さんにどんどん流れ込んでくる。

 このようなスパム化の危険性が存在するため、Facebook Adsはひとつのハードルを科している。それは友人たちに送るデータフィードの送信元に対して、収益還元を行わないというハードルだ。Facebook Beaconでさまざまな商品の情報が友人たちに送られ、その商品を購入するアフィリエイト広告料が送信元に支払われるようにしてしまえば、おそらく大量のスパマーが流れ込んでくるのは間違いない。おそらくFacebookはこの危険性に気づいて、Facebook Adsをアフィリエイト化しなかったのではないかと思われる。

カネに関係ない適切なレコメンデーションは実現するか

 アフィリエイト広告料が発生しない――ではなぜFacebookの会員は、自分の行動をわざわざ友人たちにフィードするのだろうか? もちろん、人間関係というのはカネだけで動いているわけではない。逆に自分の親しい友人、恋人、家族のような親密な関係であればあるほど、そこに金銭関係を持ち込ませないようにとする気持ちは強くなるはずだ。友愛や親愛、リスペクトは存在するけれども、しかし金銭関係はない――というのが、対等な2人の個人の理想的な関係性だ。

 その関係性を維持したまま、レコメンデーションを実現できるかどうか。金銭関係のない2人の間で、適切なレコメンデーションが実現できるかどうか。Facebook Adsのコンセプトの裏側には、そうした絶妙な皮膚感覚が潜んでいる。だがこの皮膚感覚が本当に適切なバランス感覚と言えるのかどうかは、Facebook Adsが本格始動し、普及していった後でなければ分からない。

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佐々木俊尚氏のプロフィール

ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)など。雑誌連載に加筆した『起業家2.0 次世代ベンチャー9組の物語』を上梓したばかり。連絡先はhttp://www.pressa.jp/


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