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» 2008年01月15日 12時30分 公開

ソーシャルメディア セカンドステージ:レコメンデーションの虚実(16)〜マルチディレクショナルSNSの描く驚くべき未来 (1/2)

ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏が次世代ソーシャルメディアのかたちを探る連載「ソーシャルメディア セカンドステージ」。複雑なリアルの人間関係をソーシャルメディアに持ち込むための解決策の1つとして、人間関係ごとにいくつものSNSを利用するという方法を取り上げます。

[佐々木俊尚,ITmedia]

多重的人間関係に対応できないFacebook Beacon

 前回(Facebook Beaconはいつかは受け入れられるのか?)、Facebook Beaconの内在的な問題について書いた。「今日、こんな映画を見たんだよ」「今度、こういう演劇を見に行くんだ」「この前、すてきなソファを買ったの」といった日常的なやりとりは、すべての知人・友人と交わせるわけではない。趣味が同じ友人であれば交わせる会話でも、会社の同僚や家族には話しにくいことが多い。逆に仕事に関係する話は、学生時代の同級生との会話に持ち込んでしまえば、うっとうしく思われてしまう。さらに言えば同じ学生時代の友人であっても、今でも仲良くしている友人と疎遠な友人とでは、話題も変わってくる。

 つまり友人には方向性(交友関係ジャンル)と距離(近いか遠いか)があり、この2つの関係性の多重的な構成によって友人関係というものはできあがっている。そしてFacebook Beaconは、この多重的な人間関係に対応しきれていない。

オープンソースSNSエンジンOpenPNE

 ではこの多重的な人間関係を、どのようにしてソーシャルメディアの中に持ち込むことができるのか。1つのアプローチとしては、手嶋屋がリリースしている「OpenPNE」の枠組みがある。

 OpenPNEは、オープンソースのSNSエンジンだ。この無料のソフトウェアを使えば、サーバ上に簡単に自前のSNSを構築することができる。mixiそっくりのデザインを持っている(過去にそれが問題になったこともあった)OpenPNEは多くの企業や組織、個人に受け入れられ、現在では約2万7000ものSNSに採用されている。トータルの利用者は、おそらく270万人に上るとみられており、mixi(1000万人)やモバゲータウン(800万人)などの巨大SNSには及ばないものの、二番手グループのGREE(300万人)に匹敵する利用者数を誇っている。

 SNSのエンジンだけを提供し、みずからはコミュニティー運営に関わらないというビジネスモデルは、非常に興味深い。なぜ手嶋屋はミクシィやグリーのように、SNSのサービスを提供しようと考えなかったのだろうか。手嶋守社長は最近の私の取材に、次のように語っている。

SNSは1人に1つでは足りない

イラスト

 「1人の人間にとって、SNSは1つでは足りないと思うんです。1人の人間にはさまざまな人格があるでしょう? 例えば子供時代の友人に見せる人格と家族に見せる人格、会社の同僚に見せる人格、全部違うと思うんですよ。でもいまの大手SNSでは、1つの人格しか表に出せない。もちろんそれもリアルの人格の投影ではあるんだけど、それは言ってみれば、渋谷のスクランブル交差点の雑踏の中でも出せる人格みたいなもので、会議室で見せる顔や自宅のリビングルームで見せる人格とかは反映できない」

 例えばある地方出身の若者がいたとする。彼は高校時代はすごく真面目な優等生で通っていたけれども、上京して大学に入り、その後マスコミ関係の仕事に就くに及んで、隠していた自分のひょうきんな部分を思い切り表に出すようになった。そんなときにmixiの会員になり、mixi上で自分と同じ業界の友人、知人たちとマイミクでつながる。当然のように自分のオバカな部分をさらけ出した日記を書きまくってウケを狙ってしまう。ところがある日、高校時代の同級生がmixi上で彼の存在を見つけ、「やあ久しぶり! 元気でやってますか。良かったらマイミクになってください」とメッセージを送ってきた。

 若者は困ってしまう。マイミクで同級生とつながったら、自分のオバカな日記を読まれてしまう。高校時代に優等生として通っていた自分としては、それがとても恥ずかしい。いまの業界の友人と、高校時代の友人は、同じ「友人」と言ってもまったく別の地平に存在する友人だ。それらの友人が同じ地平の中にシームレスにつながってしまうというのは、皮膚がなんだかゾクゾクとあわ立つような気持ち悪さがあって、耐えられない。そうして若者は悩んだ挙げ句、ミクシィの日記を止めてしまった……。

 「大手SNSでは、人間関係が1つしか作れない。でも1人の人間にたくさんのSNSがあれば、例えば企業向けSNSの中で企業秘密を社員同士で共有したり、あるいは家族のSNSで遺言を書いて、つながっている家族3人がいずれも『この人は亡くなった』と認定すれば、その遺言を開けることができる仕組みを作ったりもできます」(手嶋社長)

 つまりは人間関係の方向性にあわせて、いくつものSNSにつながっていくというマルチディレクショナル(多方向)SNSのアプローチである。

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