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レコメンデーションの虚実(16)〜マルチディレクショナルSNSの描く驚くべき未来ソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)

» 2008年01月15日 12時30分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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ソーシャルレコメンデーションにも向くアプローチ

 これはソーシャルレコメンデーションの分野にも、応用できる。例えば音楽は1970年代のテクノポップが好きで、しかし食事はオーガニック系の和食以外は受け付けず、仕事はウェブデザイナーという女性がいたとする。この女性は、テクノポップとオーガニック和食とウェブデザインという3つの領域をすべて共有できるような友人はなかなか見つけることができない。しかしテクノポップのSNSとオーガニック和食のSNS、それにウェブデザインのSNSにすべて加入すれば、それぞれの好みを満たすことが可能で、それぞれの分野でCDやレストランや仕事のツールのレコメンドをSNSでつながった友人たちから得ることができる。好みが一致しているSNSの世界では、自分の好みについて友人たちに知らせたり、あるいはその好みの分野についての行動(CDを買った、レストランに行った、良いツールを見つけた)を友人たちにデータフィードしたとしても、それがスパム扱いされる可能性は低い。興味対象が似ており、人間関係がターゲティングされているからだ。

 そう考えると、“わたし”が持っているいくつもの人格、顔、面それぞれにあわせてSNSを形成するというのは、非常に有効ではないかとも思えてくる。もしこのような仕組みが実現すれば、Facebook Beaconが気持ち悪く思われることもなくなり、プライバシー侵害とのそしりを受けることもなく、この種のサービスが人々に受け入れられる可能性も高くなる。

複数のSNSを維持することの手間をどう乗り越えるか

 とはいえ、このようなマルチディレクショナルSNSが可能かどうかといえば、そこには1つの高いハードルが存在していることに気づかされる。それは、1人のユーザーがいくつものSNSに加入するような面倒さを引き受けられるのか?というハードルだ。SNSは基本的には「1人勝ち」のビジネスである。1人ユーザーにとって、日記を書いたり友達とつながったりするのは、1つのSNSで十分だからだ。mixiで毎日日記を書き、多くのリアルの友人たちとつながっている人は、いまさら他のSNSを積極的に利用しようとは考えない。だからGREEやマイスペースなどの二番手グループのSNSはマスには到達できないでいる。唯一mixiに匹敵するユーザー数を誇っているのはモバゲータウンだが、このサイトは(1)携帯専用サイトだった(2)ミクシィが対象としていない未成年をターゲットにした――という2つの特徴があり、mixiとは競合しない市場で利用者数を伸ばすことができた。mixiと競合していれば、モバゲータウンはあそこまでの成長は望めなかっただろう。

 この問題を回避する方法はあるのだろうか。試みに考えれば、1つのアプローチとしてはマルチディレクショナルSNSのデータベースをオープンプラットフォームで共有するという可能性も浮上してくるだろう。1人のユーザーが持っている交友関係や日記を複数のSNSで共有し、SNSの性質に応じてそれらを切り分けて利用していくようなモデルだ。mixiが12月に日記のアクセスコントロールをさらに細かくし、「一部の友人に公開」「非公開」などのオプションを追加したが、これを複数のSNSでのアクセスコントロールにまで広げるような考え方である。

 これはSNSの1つの可能性でもある。例えばGoogleがFacebookに対抗してリリースしたOpenSocialは、サードパーティーがSNS向けのアプリケーションを開発するためのAPIを共通化した。このOpenSocialの考え方をさらに先へと進めれば、やがてはデータベースを統一し、1つの大きなSNSプラットフォームの上でさまざまな目的別SNSが存在するというマルチディレクショナルSNSアーキテクチャへと進化していく可能性がある。プラットフォームを支配していくことを至上命題としているGoogleが、このような方向性を考慮に入れている可能性は極めて高いと言わざるを得ない。

 もしこのようなアーキテクチャが完成すれば、その時にはSNSをベースにしたソーシャルレコメンデーションは圧倒的なパワーを持つに至るだろう。

SNSがつながることの問題点

 とはいえ、そうしたマルチディレクショナルSNSは、恐ろしい事態を引き起こしてしまう可能性もある。手嶋社長は「複数のSNSのデータベースを共通化するというのは、難しい。例えば浮気SNSと家族SNSをシングルサインオンにしてしまうと、日記を間違えて別のSNSに公開してしまったときに、たいへんな事態を引き起こしてしまうでしょう? もちろん柏レイソルSNSと浦和レッズSNSは試合の時につながる方が良いとか、サッカー日本代表SNSも連携させようとか、つないだ方が良い場合も出てくるんだけど、いろんな可能性を考えるとなかなか難しいと思うんですよね」と話す。

 このあたりのアクセスコントロールは、SNSの利用者がリテラシーの低い層にまで拡大している現状を考えれば、確かにさまざまな困難を伴うだろう。しかし逆に言えばこの問題をクリアし、普通のユーザーであってもうまくSNSを使い分けることのできるインタフェースを実現できれば、マルチディレクショナルSNSは大きな可能性を秘めているのは間違いないのである。

佐々木俊尚氏のプロフィール

ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)など。雑誌連載に加筆した『起業家2.0 次世代ベンチャー9組の物語』を上梓したばかり。連絡先はhttp://www.pressa.jp/


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