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レコメンデーションの虚実(18)〜アットコスメに見る日本式「共感型レコメンデーション」の世界ソーシャルメディア セカンドステージ(1/2 ページ)

» 2008年02月12日 12時45分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

“ベクトル”のないレコメンデーションは物足りない

 前回(ソーシャルメディアが映画『マトリックス』を生み出す日)、ユーザーとモノ、Webサイトなどありとあらゆる相関関係こそが世界を成り立たせていると書いた。ではこの「相関関係」とは、いったい何を意味しているのだろうか。

 相関関係とはひとことで言えば、ベクトルである。つまりそこには方向と距離がある。その意味で、ベクトルを意識していない相関関係システムは、やはり物足りない。例えばAmazonは、ユーザーの過去の購買履歴だけをもとにしてレコメンデーションを行っている。過去にわたしが購入した本やDVD、音楽CDなどの購買履歴は確かにわたしの属性を構成する要素のひとつではあるけれども、しかしわたしが今もそれらの本やDVDを気に入っているかどうかは分からない。それなのに――よく揶揄されるように、妻の誕生日に化粧品をアマゾンで買うと、その後延々と化粧品のレコメンドが行われてしまうような事態が起きてしまう。これはユーザーの購買履歴をスタティックにしか見ていないからだ。もちろん購買行動は購買履歴からある程度は推し量られるものの、しかしその行動のベクトルはきわめてダイナミックである。

 例えば映画のDVDを例にとって考えてみよう。過去の購買履歴を見ると「フランスのアート系映画」「ニューヨークの都会的なコメディー」「日本の青春映画」といったDVDを中心に購入していた人がいたとする。この人がAmazonのような購入サイトに再度アクセスすると、これらの映画ジャンルの中から新しめのDVDがピックアップされ、レコメンドされることになる。しかしこういう十把一絡げなレコメンドは、ユーザーには優しくない。今日が暗い雨の日だったら、沈んだ気分の中でフランスのアート系映画を見たくなるかもしれないし、天気の良い日ならからりと乾いた青春映画を見たくなる。彼女に振られた日なら癒される映画を見たいだろうし、仕事を終えてぐったり帰宅してきた日には、気楽なコメディーでのんびりしたい。

イラスト

 つまりは購買行動には「自分自身がどのような映画を好んでいるのか」という属性に加えて、「いまどのような映画を見たいのか」という方向性がある。前者は購買履歴から推し量ることが可能だが、後者は購買履歴からでは判断できない。その人のその時の気分など、購買履歴からは知りようがないからだ。つまりは人間の行動というのはベクトルのようなものなのだ。

いかにTPOに応じたレコメンデーションを提供するか

 ベクトルを判断できないという点においては、第15回(Facebook Beaconはいつかは受け入れられるのか?)でも書いたように、Facebook Beaconも同様の問題を抱えている。わたしはこう書いた。「友人には方向性と距離がある。前者は会社の同僚や趣味の同じ仲間、家族、同級生といった「友達ジャンル」。そして後者は、仲の良さの度合いだ。そう考えると、あらゆう方向性、あらゆる距離の友人をひとまとめにして(ある程度はグループ化ができるとはいうものの、完璧ではない)データをフィードしてしまう Facebook Beaconの仕組みは、やはり物足りない」

 人と人の関係に距離と方向性があるように、人とモノの関係にも距離と方向性がある。そしてその日の気分やいろいろな外的要因に合わせて、ユーザーが好む方向性はくるくると移り変わる。つまりはTPOだ。人と人の関係にTPOがあるように、人とモノの関係性にもTPOがある。このTPOをどうシステムにすくい上げ、的確なレコメンデーションを行うのかということは、レコメンデーションビジネスの今後の課題の1つである。

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