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最も軽いブラックホールを発見?科学なニュースとニュースの科学

» 2008年04月18日 14時30分 公開
[堺三保,ITmedia]

 去る4月2日、NASAが、観測史上最小のブラックホールを特定したという発表を行った。

 どれくらい小さいかというと、なんと直径がたったの25キロ程度なんだとか。といっても、質量はわれわれの太陽の3.8倍もあるそうなんだけど。

 このブラックホールは、我々の太陽系が属している銀河系内にあって、2001年にNASAのエックス線観測衛星(RXTE)が発見していたもので、今回、正確な質量が測定されたということらしい。

 ブラックホールというのは、ものすごい重力ですべてのもの(光さえも含む)を吸い込んでしまう存在であり、直接観測することはできない。

 ただし、その近くに他の恒星があると、ブラックホールの高重力にひかれて、恒星の一部がガスとなって吸い込まれていく。このときにエックス線やガンマ線が発生するため、エックス線望遠鏡を使えば、ブラックホールの存在も間接的に観測できるというわけだ。

 今回のブラックホールも、2つの星が互いのまわりをまわる「連星」の片割れであることから、相手の星からブラックホールへと吸い込まれていくガスから発生するX線の量を正確に測定、さらに、ガスの動きからブラックホールの重力場を測ることで、正確な大きさを特定したのだとか。

 さて、では、ブラックホールとは何なのか、一度おさらいをしておこう。

 我々の住んでいる地球のような惑星と違い、太陽のような恒星は自ら光を放っているが、あれは星全体が大規模な核融合反応を起こしているためだ。思いきり単純化して言ってしまうと、自分の身体を形作っている物質を燃料にして、内側からボンボンと爆発を起こしているようなものだ。

 恒星は、この核融合反応による爆発によって外側に膨張しようとする力と、自分の重力によって内側へと収縮していこうとする力とが釣り合うことによって、その形を保っている。

イラスト

 ところが、恒星にも寿命というものがあって、核融合反応の素である水素が尽きるときがそのうちやってくる。

 そうなると、星の外側へと膨張する力がなくなり、核融合でできた比較的重い元素が内側に向かってどんどん収縮していくようになる。

 このとき、太陽のような比較的質量が軽い恒星は白色矮星と呼ばれる星となり次第に冷却していくが、ある程度以上重い星は超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こし、中性子でできた中性子星が後に残る。

 ところが、超新星爆発を起こした後も、中性子の核が持つ圧力(縮耐圧という)よりもまだ重力の方が強いようなさらに重い星は、さらに収縮を続ける。

 こうなると、もう収縮を止める力は存在しないため、星全体が内側に向かって無限に落ち込んでいくことになる。その結果、時空に穴が空いたような状態にまでなってしまい、ありとあらゆるものを吸い込む無限に深い重力の井戸ができあがる。これがブラックホールなのだ。

 つまり、ブラックホールができあがるかどうかは、元になった恒星の質量による。今のところ、恒星の質量が太陽の約30倍以上だとブラックホールになり、それより小さいと中性子星になると考えられていて、今回の観測結果はたぶんこの宇宙に存在し得るブラックホールの中でも、最も小さいものに近いのだという。

 といっても、実は、理論上、もっともっと軽くて小さい「マイクロブラックホール」も作れるかもしれないんだけど、そういうものは、できたとたんに蒸発して無くなっちゃうから、存在し続けられないんだとか。

 さらにいうと、これはあくまでも理論上の結論であり、上に書いたように、ブラックホール自体の観測もできないため、「ブラックホールのように見えるが実はそうではない天体(完全に時空に穴が空いた状態にはなってない)を観測しているだけ」と主張する学者もいたりする。

 そんなわけで、ブラックホールという名前と大まかなイメージは広まったものの、われわれ素人には正直まだまだよくわからん代物だったりするのだった。

 なんにしても、ものすごい高重力の天体が存在することには間違いはないんだけどね。

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堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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