出会いの春は見た目が命、「見た目90%説」はどこから来た?Biz.ID Weekly Top10

4月は出会いの季節。見た目が第一印象を決定づけることは、誰しも実感したことがあるだろう。最近では人を判断するときに「見た目90%」なる説が巷に溢れている。この説はいったいどこから来て、定着したのか。

» 2008年04月03日 21時13分 公開
[豊島美幸,ITmedia]

 筆者は先週、取材で訪れた幻の目隠しレストラン、「クラヤミ食堂」で視界を奪われる体験をし、いかに視覚で世界を把握しているのか痛感した。

しぐさに動作も――言葉以外すべてが「見た目」

 このとき多くの参加者たちが、視覚が判断力の大きなウエイトを占めるか述べ合っているなかで、よく出てきたのが「見た目8割」「見た目90%」という言い回し。見た目90%って本当だったんだね」といった具合に使っていた。

 見た目が判断力の多くを占めるのは実感として分かっている。だからこそ暑さ寒さをしのぐ機能面以上に、“モテ”の武器として、また自己表現として見た目を楽しむファッションやヘアメイクというジャンルが存在するのだ。

 しかしここ数年、見た目が80%や90%と、高い値でデータ化までし、急に定説化した背景に、ベストセラーの「人は見た目が九割」がある。本が発行された2005年当時、世間を席巻したのを覚えている人もいるだろう。今では「見た目90%」はゆるぎない市民権を獲得した。

 「人は見た目が九割」では、コミュニケーションの方法は、言葉による「言語コミュニケーション」と、言葉以外の「非言語コミュニケーション」に2大別されている。そしてしぐさや動作などを含めた「非言語コミュニケーション」が「見た目」であるというわけだ。

 「非言語コミュニケーション」は、米国の心理学者マジョリー・ヴァーガスが提唱する「ノンバーバルコミュニケーション」を直訳した言葉だ。

限定条件での実験結果が、なぜか定説に

 「見た目」に関する心理学研究をさらに遡ると、米国の心理学者アルバート・メラビアンに行き着く。メラビアンが1971年に提唱したとされているのが、人は言語(Verbal)が7%、聴覚(Vocal)が38%、視覚(Visual)が55%で他人を判断するという、「3Vの法則」や「7-38-55ルール」と呼ばれているものだ。

 「天使と悪魔のビジネス用語辞典」内で、原文を意訳している平野 喜久氏によると、実験はこういうものであった。

  1. 「好意」「嫌悪」「中立」のニュアンスの単語を3つずつ、全9単語を用意。
  2. 選んだ単語を「好意」「嫌悪」「中立」の声色で、話し手の声を録音したものを用意。
  3. 「好意」「嫌悪」「中立」の表情をした顔写真を1枚ずつ用意。
  4. 被験者は1枚の写真を見ながら、ある単語を聞く。

 例えば笑った顔写真を見ながら、楽しそうな声色で、悪意ある単語を聞かされた時、もし被験者が話し手の感情を「嫌悪」と判断したら――人は視覚や聴覚より、言語から受ける印象が強いと判断する、というものだ。

 つまりこの実験は、あくまで「視覚」「聴覚」「言語」の3つが矛盾しているとき、人は何を優先して判断するのかを問うものだった。だからメラビアンは、こうして矛盾するシチュエーションをあえて作り出した。

 辞書の編者などをしている飯間浩明氏の「きょうのことばメモ」によると、実際にメラビアンは、自著による『非言語コミュニケーション』の中で、「7-38-55」のデータは「『表情と言葉が矛盾する場合』に、人は何から最もインパクトを受けるか、という調査の結果である」と述べているようだ。

 ところが実験結果の「7-38-55」という数字だけが一人歩きし――いつの間にか、どのシチュエーションでも、人は言語が7%、聴覚が38%、視覚が55%で判断する、という解釈に変容してしまった。堂々と大手を振っている「見た目90%説」には、実はこうしたカラクリが潜んでいる。

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