人は操られているとか、相手の結論に誘導されていると感じると、逆の方向に行こうとする心理が働く。こうした皮肉な結果はセールスでも見られ、「売る」ことに躍起になればなるほど効果は遠のいてしまう。
連載「売れるコンサルティング・セールスへの5つの道」は、フランクリン・コヴィー・ジャパンの書籍『ヘルピング・クライアンツ・サクシード』から抜粋したものです。営業マンと顧客の関係をどうすれば、長期間に渡る良好な関係を築けるか――そんな疑問に答える連載です。
クライアントの成功を手助けしようと思ったら、有効な情報が必要だ。そして、そうした情報を手に入れるためには質問しなければならない。コンサルタントにどこまで情報を渡すべきか、クライアントは主に質問の意図を探ることによって判断する。こちらが満足する方法でこちらの要求に応えようと思って質問しているのか。それとも、自分の満足する方法で自分の要求を満たすために質問しているのか。コンサルタントは受け取った情報をこちらの利益のためにのみ利用する、と信用して大丈夫か。
クライアントのこうした判断は、無意識に直感で行われる場合が多いが、あなたがそうした判断に影響を与えることは可能だ。「人は相手の熱意を感じてはじめて、何かを話そうとする」という古い格言もあるではないか。
あなたの存在そのものが大きすぎて、言葉などかすんでしまう。
エマーソン
我々の友人であり、同僚のスティーブン・M.R.コヴィーは著書『スピード・オブ・トラスト』の中で、次の2つの重要な点について説明し、実践もしている。
本書では信頼を次のように定義する。
クライアントとしては当然コンサルタントに期待する。自分たちの利害と一致する動機と、自分たちのニーズを満たすソリューションの構築・提供に必要な専門知識を持っていてほしいと。一方のコンサルタントは、クライアントに自分の動機を分かってもらうより、自分の専門知識を改善するほうが簡単だと思っている。
だが、あなたの動機がクライアントの目に快く映らないときは、あなたの専門知識まで見くびられるだろう。クライアントは、あなたが好むと好まざるとにかかわらず、あなたの中に何らかの動機を見出そうとする。そして、彼らがどんな動機を思い描くかによって、対話の出来不出来が大きく変わってくる。
もしあなたが明確な動機を持っていなければ、クライアントにとっても分かりづらいことになる。その意味で、「動機ステートメント」を作成し、プレッシャーのかかる状況でもその動機に従って行動する能力を身につけることが大切だ。明確な動機を持つための演習を付録2(※編集部注:付録2は書籍にて掲載)で紹介する。
行動の背後にある意図がその行動の効果を決定し、あらゆる意図が自分のみならず周囲にも影響を及ぼす。そして、意図の効果が及ぶ先は物質世界にとどまらない……だから、我々の経験を特徴づける数多くの意図を意識し、どの意図がどの効果を生み出すか見きわめ、自分が生じさせたいと思う効果に合う意図を選択することが我々にとって賢明なことといえよう。
ゲーリー・ズーカフ(『魂との対話』〔サンマーク出版刊〕)
人は操られているとか、相手の結論に誘導されていると感じると、逆の方向に行こうとする心理が働く。この種の行動を抵抗、あるいは極性反応と呼ぶ。こうした皮肉な結果はセールスでも見られ、「売る」ことに躍起になればなるほど効果は遠のいてしまう。クライアントは、自分の選択が狭められつつあると感じると、その圧力を跳ね返そうという気持ちを強めるからだ。
これは一種の感情的反応である。こうして信頼関係にひびが入ると情報の流れが詰まり、クライアントに満足してもらえるようなソリューションを生み出すのは難しくなる。それに対し、あなたの動機はクライアントの成功を手助けすることだと相手に感じさせられれば、どんな結果を実現しようとしているのか教えてもらえる可能性が高まる。そして、クライアントが何を欲し、どのようなニーズを持っているか理解できれば、あなたの提案はより良いものになるだろう。要するに、クライアントの利害に目を向けることがあなたの利益にもつながるのだ。
我々はこのメカニズムを一応理解はしている。ところが、自分個人や組織の売上げ目標が頭にちらつくと、我々の動機は「ノルマ達成! 契約の獲得!」となってしまう。そして皮肉なことに、頑張れば頑張るほど結果は悪い方向へと向かう。クライアントの成功を手助けすることを忘れ、自分の成功にばかり気を取られていると、クライアントはそのズレを見抜き、不快に感じる。どうか忘れないでほしい。自分の成績が大事なら、むしろそれを脇に置き、クライアントの成績に専念することが重要なのだ。
人の動機に疑惑の目が向けられた途端、その人の行動すべてが歪めて見られる。
マハトマ・ガンジー
相手の成功のために努力すると、自分も成功できる。これは陳腐な決まり文句などではない。私が経験を通じて得た教訓である。我々は生活のためのセールス(売上げを増やさなければならない)も、自分の自尊心によるセールス(クライアントにこれを採用させてみせる)も、またクライアントの成功を手助けするためのセールスも体験してきた。そして、その違いを心で、頭で、そして肌で感じている。クライアントの成功を手助けすると満足感が得られるだけではない。そのほうがずっと効果的なのだ。単なる親切心からの行為ではない。博愛主義でもなければ、無私無欲の境地でもない。実は、自分が求めるものを手に入れるための強力な手段なのである。
自分の成績が大事なら、むしろそれを脇に置き、クライアントの成績に専念することが重要だ。
テクニックが重要なことは言うまでもない。あなたは世界で最も善意にあふれた、すばらしい人であるかもしれないが、そうであったとしてもコミュニケーション・スキル、重要な思考ツールを欠いていたら成功はおぼつかない。本書はかなりの部分をテクニックの説明に割いている。しかしそのテクニックがあなたの動機、あなたの取引相手の動機に役立つものでなければ、何もかもが危うくなる。
次回は「“マシュマロ”を食べる前に問題を明確にせよ」です。お楽しみに。
フランクリン・コヴィー・ジャパンは8月20日、管理職向けセミナー「トラスト・リーダーシップ」を開催します。
100年に1度の不況と言われる昨今、多くの企業がリストラや残業の削減を行う中で、企業と社員、上司と部下という関係における“信頼”が低下しています。本セミナーでは、フランクリン・コヴィー・ジャパンの佐藤亙(さとう・わたる)取締役副社長が、リーダーとして結果を出すために必要なチームメンバーとの信頼について、その基本原則と信頼構築のための具体的な手法をお伝えします。
ゲスト講師にはスポーツジャーナリストの二宮清純(にのみや・せいじゅん)氏を迎え、スポーツ界においてチームメンバーとの信頼によりチームを勝利に導いた事例をご紹介しながら、スポーツとビジネスに共通する“信頼”を考えます。
開催概要 | |
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開催日程 | 8月20日(木)9時〜17時 |
対象者 | 管理職、プロジェクトリーダー、成果を望むビジネスパーソン |
会場 | 椿山荘(東京都文京区関口2-10-8) |
受講料 | 2万9400円〜4万2000円(昼食付き)※参加人数、研修導入状況により異なります |
定員 | 300名 |
申し込み方法 | WebサイトまたはFAX 03-3264-7407 にて |
支払方法 | 銀行振込 |
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