むなしい気持ちを抱えたままでは、「やる気」もわいてきません。そして、私たちの生活を便利にする道具が、むなしさを加速させ、ストーリーを見失わせているというのです。
本連載は、心理学博士・榎本博明氏著、日本実業出版社刊『やる気がいつの間にかわいてくるたった1つの方法』から編集転載しています。
「日曜の夜は憂鬱(ゆううつ)になる」「自分に合った仕事に巡り会えればきっと仕事を楽しめるのに」――そう考えている人たちに向け、「自分に向いている仕事さがし」ではなく自分の「仕事づくり」のコツとして“ストーリー”をキーワードに解説しています。
そのコツを習得すれば、転職することなく、今の仕事に対して自然にやる気がわいてきて、仕事を楽しめるようになるといいます。
どうせ働くのなら、楽しみながら働くコツを身につけてみるのはいかがですか。
現代人を悩ます最大の問題は、日々の生活のむなしさである。しかも、何がどうむなしいのかも、自分自身が何を求めているのかも分からない。だから、どうしたらそのむなしさから脱することができるのかが分からない。
このような心理状態のことを精神分析学者エリクソンはアイデンティティ拡散と名づけた。
アイデンティティ拡散とは、これが自分の生き方だといえるものが定まらず、さまざまな「なりたい自分」、「なれそうな自分」、「こうはなりたくない自分」などを前にして、どうしたら良いのか分からなくなったり、何にもなれないのではないかといった切迫感にさいなまれるなど、自分を見失った状態をさす。
アイデンティティ拡散に陥ると、1.時間的展望の拡散、2.同一性意識の過剰、3.勤勉さの拡散、4.親密さの回避といった兆候を示しがちとなる。
このようなアイデンティティ拡散に陥ると、むなしさから逃れようとして、自分と向き合う瞬間が訪れるのをひたすら避けようとする。
少しでも空き時間ができれば、メールやツイッター、ブログでみんなとやりとりしたり、つぶやいたりする。ちょっとした合間に沈黙が気になったら、テレビをつける。ゲームをする。音楽を聴く。現代文明は、自分と向き合わないでいられるために、ありとあらゆる道具を開発し、提供してくれる。
実存哲学者のニーチェも、現代人は神話を奪われていると言ったが、実存心理学者ロロ・メイは、私たち現代人の不安の源泉は、神話を失ったことにあるという(ロロ・メイ『自分さがしの神話』読売新聞社)。
「神話とは、意味のない世界に意味を見いだすための、ひとつの方法である。神話とは、私たちの人生に意義を与えてくれる、さまざまな形式をもった物語である」
「もはや神話は、人生に意味を与えるという本来の目的を果たしておらず、現代人は人生の方向もわからずに立ちつくし、不安や過剰な罪悪感を抑えることもできないでいる」
科学の発達により、神話は人々の人生を意味づける力を失っていった。科学は、私たちの生活を便利にするためのさまざまな道具や技術を与えてくれるが、それらをどのように使ったら意味のある人生になるのかは教えてくれない。
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