約550人の社員がだれ一人として固定席を持たないCBREだが、では「あの人とちょっと打ち合わせしたいんだけどな」となったときには、どこへ行ったらいいのだろうか? 「今、あの人はどこにいる?」が分かりにくいのはフリーアドレス制のデメリットでもある。その結果、各自がお気に入りの席に居付いてしまい、結局、フリーアドレス制がなし崩しになることもある。
「そんなときに便利なのが全社員が使っているメッセンジャーアプリです。チャットではなく直接会いたい場合には、社員名の横のコメントを見てください。この人はいま『シドニー』にいるそうです。こっちの人は『ロンドン』ですね」と、マハタボ氏が笑顔で教えてくれた。さすがグローバル企業。でも、日本語の質問がうまく伝わらなかったのだろうか……。
結論からいえば、CBREの東京オフィスはロンドン、パリ、シドニー、ロサンゼルス、ニューヨーク、そしてトーキョーという6つのゾーンに分かれているのだ。会議室の名前は、それぞれの地域に関連する地名や名称がついている。よくみれば、社内のしつらえもそれぞれの地域の特性をイメージしていた。
ここで冒頭で紹介した壁画につながった。トーキョーエリアの壁画はお堀とコイが描かれているし、ニューヨークエリアにはポップアート、ロサンゼルスエリアにはグラフィティが描かれた。ただの“遊び心”ではなく意味があったのだ。
社内外の見学者は、この壁画を見るとみんな「ワオ!」と驚くそうだ。だが、約1年半にもわたった移転プロジェクトの成果は上々だ。まず、会議室の利用率は約25%から60%以上に改善された。社員が抱えていた「集中して仕事ができるスペースがない」という不満は92%から33%に、「コラボレーションスペースがない」という課題は75%から22%に減少された。同社では、東京オフィスの取り組みを国内外へ広くフィードバックしていくという。
最後に、この移転プロジェクトによって得られた成果の一部を紹介したい。不動産業界という業態ゆえに紙の仕事を完全になくすことはできないが、可能な限りデジタル化を推進し、92%の紙のストックを削減した。これは約2800万ページ、面積にすると東京ドーム135個分に相当する。また、オンデマンド印刷システムの導入により3000万円以上のコストカットに成功している。
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