不足している情報とは、比較対の数字です。例えば、前期と比較して今期の数字はどうだったのか――という情報が不足しているのです。
「わが社の売上高は、○○百万円です。この数字は、前期比○%のアップでした。○%アップとなった主な原因は、○○という新商品がヒットしたことによるものだと考えられます」
と、今期と前期の数字を比較してみることで、今期の数字はよい数字なのか悪い数字なのかを判断できるようになります。
前期と比較してよくなっていたら、その原因を探りましょう。売上の増減理由については、社長もすでに把握しているはずです。経理からの決算報告で、やはりそうだったかと納得することでしょう。
比較対象は、前期だけでなく過去5年ぐらいを横に並べると、会社のトレンドが見えてきます。前期比較だけでは見落としていたことも分かりますので、複数の期間を比較するようにしてください。前期の数字が異常値だった場合も複数の期間を比較してみると、決算書から読み取れる情報を見誤りません。
自社の決算書の数字だけでなく他社との比較も効果的です。
実際には他社の決算情報を入手することは困難です。かといって、経営分析の本でよく出てくるトヨタのような企業と比較をしても意味がありません。異業種の会社の数字と比較をしても、あまり意味をなさないことが多いです。
他社と比較をする際には、同業種の会社を選んでください。通常は同業種・同規模のライバル会社の決算情報はなかなか手に入らないでしょうから、最初は同業種の上場企業の数値を参考にするとよいでしょう。
上場企業との数字比較では、実数で比較をしても規模が違い過ぎます。そこで、比率で表わされるような財務分析指標をもとに比較をすると分かりやすくなります。
経済産業省から発表されている「中小企業実態基本調査」の業種別・企業規模別の数値を比較数字として利用するのも効果的です。年度ごとに調査結果が発表されていますので、他社と自社の推移の傾向を比較することも数字の理解を深めます。
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の経営自己診断システムもお勧めです。中小機構のホームページにシステムが公開されており、登録不要、無料で使えます。数字を入力すると、150万社のデータと自社の数字とを比較して、財務分析結果が自動で出てきます。
まずは実数を把握し、次に期間比較、他社比較をして、決算書を読むことに慣れてください。時間はかかりますが、場数をこなすことで読み解く力は確実に上がってくるはずです。
さて、最後に筆者がかつて顧問先の社長からダメ出しをされた理由をお伝えします。
中小企業の決算数字は適正な数字になっていないことがあります。例えば、会社を黒字化したいがために減価償却費の計上をしていなかったり、役員報酬の金額を前年に比べて大幅に下げたり――といった調整が行われていることは少なくありません。
会社が意図的に黒字を多くしているときに、筆者はそのことを知らずに、
「会社の利益が前年に比べてよくなりました。さすがですね」
と報告していたのです。
役員報酬を下げてよく見えるようにしているだけですから、決算書の上では利益が出ていても、社長にとっては特に喜ばしいことではなかったのです。
中小企業の決算書を読みこなす際には、こういった特殊な事情を補正して理解しなければなりませんので注意が必要です。
財務分析をする際も、その期だけの特殊な事情がないかどうか、その事情の影響はどの程度かを考えつつ、比較・検討するようにしましょう。
税理士。税理士事務所勤務、リサイクルショップ経営等を経て2006年佐藤税理士事務所を設立。ITを駆使した生産性向上支援、経理業務効率化等支援が得意。2010年にはAll Aboutプロファイルで人気No.1税理士に。
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