なぜプロ契約しなかったのか――最後の“社員Jリーガー”斉藤雅人さんに聞く:アスリートという働き方(2/2 ページ)
冬季オリンピック、FIFAワールドカップ――。2010年は、さまざまな競技に注目が集まる年だ。しかし不況の昨今、金銭的な面でスポーツ界は存続自体がなかなか厳しく、廃部や企業のスポンサー撤退も珍しくない。スポーツを職業としている人たちは、どんな働き方をしているのだろうか。今回は昨シーズンまで、大宮アルディージャで活躍していた斉藤雅人さんに話を聞いた。
新たなところで大宮アルディージャの力に
現役生活で特に印象に残っていることは? と聞いてみた。筆者は当然自分のプレーや仲間とのエピソードが返ってくると思っていたのだが、斉藤さんはサポーターへの感謝の言葉を口にした。「もう少し早くJ1に行きたかったのですが、6年間もJ2で過ごしてしまいました。サポーターのみなさんに、なかなかいい報告ができなかったのがとてもつらくて。それでも最後までサポーターが支えてくれたことは本当にうれしかった。それが一番印象に残っています」
サポーターとのこんなエピソードもある。イギリス出身のサポーターの1人に声をかけられたのが縁で、英会話を教えてもらっていたのだ。「彼は英会話の先生が職業というわけではないので、週1回レッスンというか、カフェでお茶しながら英会話の機会を作っていました」。これはチームにいる外国人選手とのコミュニケーションにも役立った。
引退発表の後、ファンから惜しむ声がたくさん届いた。「おかげさまで、『まだプレーを見たかった』というファンの方も多かったのですが、自分なりには全力を出し尽くしました。自分の中でJ1でプレーをすることが最大の目標でしたし、(現役生活に)悔いは残っていません。12年間お世話になったクラブでプレーできないというのは、寂しい気持ちでしたけど、引退後もクラブに携われるという話もいただいていましたし。また新たなところで大宮アルディージャの力になれたらなと思いました」
日本を代表するクラブへ
コーチとなった今、選手時代に比べて拘束時間が長い。午前中に事務作業をこなし、午後3時半から4時くらいからスクールが始まる。60分のレッスン3本をこなし、帰宅するのは午後9時から11時半ごろ。選手時代、健康維持のため1日8時間きっちりととっていた睡眠時間はだいぶ短くなった。
「これまでは、すべて整えられた環境、与えられた環境でした。今後はなにか発信しなければならない立場になる。自分の思っていることをどう伝えるか、その言葉選びが重要だと思います。(2010年)3月から自分がメインのコーチとして働けるよう、今はメインのコーチの後ろについて必死で勉強しているところです」
「大宮アルディージャが、クラブワールドカップで世界のトップの選手たちと戦えるような、日本を代表するクラブになっていってほしい」と斉藤さん。そのためにも自分が少しでも力になりたいと抱負を述べた。「いまの立場は、サッカーの普及活動が目的なので、まずは『サッカーは楽しいんだよ』と伝えていきたいです。将来的には下部組織から、トップで活躍できる選手を育てていけたらと思っています」
2月13日のさいたまシティカップでは、大宮アルディージャが、韓国Kリーグの強豪の水原サムスンブルーウィングスを相手に5対0の大勝を飾った。斉藤コーチが育てた選手がトップで活躍する日もそう遠くないかもしれない。今の自分の仕事ぶりを客観的に見てどうですか? と聞いたところ「余裕がなくて、いっぱいいっぱい。まだまだですね」と恥ずかしそうに笑っていた。
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