「顧客の課題を抽出」できる人になる:研修に行ってこい!
営業の役割としてよく言われるのが、「顧客の課題を抽出する」こと。実はこの力、朝礼や打ち合わせといった日々の業務の中で身に付けられるのです。
2月9日付けの記事に「営業現現場の課題『顧客の課題抽出できず』――企業の7割、営業現場に悩み」というものがありました。
企業が存続、発展していくためには、クライアントから仕事をいただかなければなりません。そのためには、クライアントの未来の計画と、それを達成する上での課題をとらえる必要があります。その上で課題を解決あるいはサポートすることで、わたしたちの仕事は成り立っています。
しかし、そのクライアントの課題が分からなければ、わたしたちの存在意義や価値が問われます。そのような意味で、この記事のデータは非常に大きな問題を提起してくれています。
そこで今回から数回にわたって、営業担当や営業アシスタントだけでなく、営業以外のセクションの人でもすぐに取り組めて、かつ効果の高い、クライアントの課題のとらえ方をご紹介していきます。ぜひ、あなたの会社の業績アップにつなげられるよう、役立てていってください。
クライアントの悩み
わたしも日頃、クライアントへの営業をしています。ここ1年ほど話を聞いていて感じることは、クライアント自身もまだ、明確な方向性を打ち出せない状態、つまり、課題を特定しきれない状態のようです。
本来は、経営計画に従って、その計画にのっとって進めていけることが望ましいことは百も承知しているものの、現実には経済状況やそれ以外の不確定要素の影響が見えず、世の中の動向が安定するタイミングを見計らっている。そのような印象を受けます。
クライアントが望む2つのこと
方向性が定まらず、様子見をしている状況のなかで、クライアントが望んでいることは何でしょうか? わたしは、それは次の2つだと考えています。
- 相談相手、パートナーとしての関係性
- 質の高い情報提供
これでは「即売上にはつながらないではないか!」とお叱りを受けそうですが、具体的な案件がない状況で提案をする場合、今は焦って自社の売上や利益を優先することは、マイナスの印象を相手に与える結果となるためお勧めできません。
それよりも、クライアントが仕事を進めやすいように情報を提供することや、クライアントのお話を今まで以上に聞いて、その会社についての理解を深めることなど、次のタイミングでお役に立つための関係性を築いた方がよい時期です。そのためにも、有効な情報を提供できる力、すなわち、組織内の情報活用力をつけておくことが得策です。
業界動向をWebサイトから読み解く
クライアントの求める役割や情報を提供するためにわたしがお勧めしているのは、Webサイトの活用です。インターネットが発達していない時代は、情報は誌面や人を通じてしか得ることができませんでした。しかし現在は、ネットによって誰でも簡単に有益な情報を得ることができます。これをビジネスに生かさない手はありません。
まずは、「これから先(5年〜10年先)がどうなるか?」という長期的視点を養い、俯瞰(ふかん)的に物事を見るための基礎力をつけることが必須です。
これから先の大まかな方向性を掴むためのポイントとして、次のような情報に目を通しすことをお勧めします。読み慣れないうちは、「何のこと?」と、感じるかもしれませんが、まずは、情報の量に触れることを優先してください。量に触れているうちに、何となく分かることが出てくるもの。そのようなものだと思って見てくださいね。
Webサイトの種類 | 押さえるポイント |
---|---|
経済産業省 | 「経済成長戦略」など、今後の国の方向性についての情報 |
管轄省庁や局 | 自分が関わる業界に関するデータなどを確認 |
リーディングカンパニー | 業界をけん引する企業(3社ほど)のIR情報、採用情報を確認 |
業界団体 | 業界動向などに関する詳細データなどを確認 |
商工会議所 | 会頭のコメントや、業界に関係する情報を確認 |
帝国データバンクなど | マクロ経済見通し、景気動向のリポートや、倒産などの情報を確認 |
職場で意見交換をしてみる
情報に触れた上でぜひお勧めなのが、朝礼や打ち合せといったOJTの場で、自社に関係するキーワードを基に意見交換をしてみることです。
進め方は簡単です。気になるキーワードを元に、次のようなことを話し合います。
- 自分、家族、友人に、キーワードに関係する体験や情報がなかったか?
- クライアント、取引先に、キーワードに関係する体験や情報がなかったか?
- みんなの体験や情報から、どのようなことが言えるか?
正解が必要な話ではないので、自由に気楽に伝えあってみましょう。その際に、できるだけ具体的に、期日や数値などを含めて伝えあうことがポイントです。
例えば、「エコ」をテーマに話を進めると次のようなイメージとなります。
- 3カ月前から、家の近くのスーパーで「袋をお付けしてもよろしいですか?」と、必ず聞かれるようになった。
- ファクスでの情報受信を拒否する会社が増えてきた。以前はファクスを送っても配信拒否はほとんどなかったが、現在は1回の配信で5件ほどある。
- 環境に配慮することが当たり前になってきている。クライアントは、環境に関わらず「配慮のない意識や行動」に嫌悪感を持つようになってきているのではないか?
これくらいなら、誰にでもできそうな気がしませんか? 大切なのは、長期的な視点をもった上で、そのことを身近なこと、“自分ごと”としてとらえる力です。また、このような機会を持っていると、自然と新しい情報を得ようと意識が向くため、変化をキャッチする力がついてきます。“自分ごと”として捉える力、変化をキャッチする力が情報活用力の第一歩です。
「情報活用力を身につけることは、クライアント先に行く営業担当者のやる仕事では?」と、感じられるかもしれません。しかし今は、営業担当者の力だけでは業績が上げにくい時代になってきています。業績を上げるためには、会社全体でクライアントのことを考える時代なのです。また、会社全体で取り組むことで、仕事そのものにもっとやりがいを感じるようになるはずです。
次回以降で、その理由や、必要な取り組みなどについてご紹介していきます。まずは、情報活用力の第一歩、トライしてみてくださいね。
著者紹介:原田由美子(はらだ・ゆみこ)
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
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新入社員の時に教わって以来、筆者が今でも提案活動に生かしていることがあります。それは自分以外の人にクライアント役をやってもらう「ロールプレーイング」です。取り組みが、仕事の成否を分けているのです。 - 連載バックナンバー
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