イノベーションは誰でもできる――USBメモリの発案者が話す「先入観を壊すコツ」(前編):コクヨ「WORKSIGHT LAB.」(2/2 ページ)
「実は“イノベーション力”において、日本人は本来“最強”なんです」と話すUSBメモリなどの発案者としても有名な濱口秀司氏(Ziba戦略ディレクター)。一体どうすればイノベーションを起こせるようになるのか。
桃太郎を破壊せよ
「バイアスを壊すこと」はどういう場合があるだろうか。濱口氏は4つのケースを話した。最初は「Bを取るとAを失い、Aを取るとBを失う」という二律背反のケース。こうした状況を解決するには以下のような方法があるだろう。
- 極端にA(もしくはB)に近づこうとする
- 中庸をいく(上手く組み合わせる、バランスをとる)
- バイアス曲線から離れる(とにかくAとBの両方を満たす形を目指す)
大切なのは「見えないものは破壊できない」ことだと濱口氏。何か見えるものにしなければバイアスは壊せないのだ。濱口氏はAとBとをバイアス曲線という形で示した。このバイアス曲線を“壊す”、つまりバイアス曲線から離れることがイノベーティブなアイデアだという。
続いては「桃太郎を破壊せよ」というケース。「桃太郎=ヒーロー」という認識は、誰にでもあるだろう。ところが「桃太郎には仲間がいて勧善懲悪である」というバイアスを壊せば「桃太郎は鬼を退治した。おじいさん、おばあさんの元へ戻る船上でキジを焼き鳥にして食べた」というストーリーも成り立つ。「桃太郎には仲間がいて勧善懲悪である」という構造を壊した結果だとすれば、これもイノベーションの一形態だ。ここでも大切なのは「構造なきものは破壊できない」という。
3つめのケースはUSBフラッシュメモリが誕生した理由に着目した。当時濱口氏は、データサイズとエクスペリエンス(触って分かる体験)の2軸で考えたという。デジタルデータのファイル添付やサーバーへのアップロードは、手触りのあるエクスペリエンスとして感じられない。しかしユーザーの使用するデータサイズは、どんどん大きくなっていく。当時は「絶対にワイヤレスになる」との考えが支配的だったこともあり、データサイズからも物理的なフロッピーディスクやコンパクトフラッシュは開発の方向性として「あり得ない」ものだった。
だが濱口氏は「本当にそうなのか?」と疑問を感じた。つまり「物質的な所有が本当になくなるのか」ということ。結局「そのデータは自分のデータだ」と言うためのエクスペリエンスがUSBフラッシュメモリの始まりとなった。ここでポイントとなるのは「人々の発想のバイアスを狙うべし」という点だ。チームメンバーが同じように考えている、そのバイアスを壊すのである。
壊すバイアスは深ければ深いほどよい
最後のケースは「EV(電気自動車)を京都でユニークに走らせてみよう」という実際にあったプロジェクトのこと。5社が企画を考えたものの、アイデアの基本はいずれも「京都は狭い町だし、細い路地を入ると面白いので車を小さくする」というものだった。
どこにバイアスがあるのか、それを見つけるために濱口氏はオブジェクト(物体)とモビリティ(移動性)の2軸で考えた。「なぜみんな(オブジェクトを)小さくするのか?」を考えると、それはモビリティを上げたいからである。つまりモビリティと物のサイズには相関関係があることにつながる。
そこで考えた出したのは、堀川通の一番端だけを走れるEV。堀川通は自転車レーンもあり歩道も広い。当初の「細い路地を入ると面白いので車を小さくする」というアイデアとはある意味正反対のものだ。
このEVはスピードを自由に調整できる代わりに、自動車の車線は走らない。各交差点にはEV用の充電スタンドを作る。充電スタンドや走行レーンを固定したから、乗り手側には分かりやすい。京都で地震や停電が起きたらEVの電気を生活に利用することも可能だ。さらに電源コードを引き抜くと100本の接続ケーブルで携帯電話を充電できたらどうだろう。EVのバッテリーが切れるまでは電話通信ができるというインフラに作り変えられる。つまりEVが電気のライフラインにもなり得るというわけだ。
このケースでは、モビリティとサイズとの相関関係そのものを破壊した。「壊すバイアスは深ければ深いほどよい」と濱口氏。「当たり前の要素こそ壊す」のである。
後編に続く。
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