ビジネスで使うなら、企業のBYOD対応は避けられない:モバイルクラウド
海外を中心に私物端末の業務利用「BYOD(Bring Your Own Device)」を禁じることが難しくなっている。便利な面だけを見るのではなく、リスクや検討すべき制度面についても見ておこう。
集中連載「モバイルクラウド」について
本連載は2012年11月に発売した『モバイルクラウド』(中経出版刊)から一部抜粋しています。
爆発的に増える巨大なデータ量(ビッグデータ)の先には「モバイルクラウド」という新たなソリューショントレンドが生まれつつあります。しかしモバイルクラウドの本質は、「ノマド」「ソーシャル」「スマートデバイス」などとともに語られてきた「ワークスタイルのシフト」にあります。本書はモバイルクラウドが私達の暮らしに与えるインパクトを語る一冊です。
モバイルデバイスのメリットは、日常から携行していることだ。その点では、個人のデバイスを会社に持ってきてもどこかにしまっておいて実務ではまったく使えず、使い慣れた端末でなく使い慣れない会社端末を使わざるを得ないというのは、あまりにも機会損失甚だしいというものだろう。やはり現在のトレンドであるBYOD(Bring Your Own Device:私物端末の持ち込み)は禁じることができなくなってくる。
個人のデバイスを仕事でも使う代わりに、その部分だけ会社が利用料や端末の購入金額など補てんする考え方がBYODだ。こうした考え方は、既に海外では一般的になっている。しかし日本では、まだまだ根付いていない面がある。
ただBYODを導入するには、端末を紛失したときに会社と個人のどちらがどの程度責任を取るのかといったことをはじめ、あらかじめ決めておくべき事項がたくさんある。
もちろん、BYODではなく会社が貸与した端末を社外に持っていってなくした場合は誰の責任とするのかについても同じことがいえる。
BYODには勤務時間の問題も
もう1つ悩ましいのは、個人の端末で仕事をしている状態を勤務時間として認めるのかどうか人事面での課題である。帰宅途中の電車の中で仕事のメールの返信を打ったりすることは、残業に含まれるのかどうか。カフェで広げたタブレットでエクセルシートの報告書を作成して送付することは残業に含まれるのかどうか、といったことだ。
これはテレワーク、モバイルワークの制度の中では極めて大きな課題で、人事制度上、その時間が残業に当たるのかどうか、その間に起こった労災事故はどうするのかといった論点が議論すべきポイントとして挙げられている。
こうしたことは、クラウド環境が整っていない時期にはあまり考えないでよい課題だった。モバイルデバイスを持ち込んだとしてもそれぞれはほとんど単独でしか機能していなかったからだ。
管理部門はBYODで検討すべき事柄の洗い出しを
しかし、さまざまなモバイルデバイスがクラウドを通じてどこからでも情報にアクセスできるようになったので、便利になった反面、検討すべきセキュリティ面、端末導入、運用面、人事制度面での懸念も高まってきたといえる。
いつの時代もそうだが、便利になるときには相応のリスクや検討すべき事項も発生する。便利な面だけを見るのではなく、リスクについてもきちんと対応するとともに、検討すべき制度面についても会社としての方針を決定しておきたいところである。
- 関連連載『スマートデバイス導入のお悩み相談室』
著者紹介:八子知礼(やこ・とものり)
松下電工(現・パナソニック電工)にて通信機器の開発・商品企画に携わり、朝日Arthur Andersen(現・PwC)に転職、5年半さまざまな企業へのコンサルティングサービスを提供。現在はデロイトトーマツコンサルティングに移籍し、TMT(Technology Media Telecom)インダストリユニットに所属している。
通信、メディア、ハイテク業界を中心に、商品企画やマーケティング戦略、新規事業戦略、バリューチェーン再編などのプロジェクトを多数手掛けている。
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