モバイルクラウド時代の6つのビジネスヒント:モバイルクラウド(3/3 ページ)
スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末がビジネスの場面にも普及してきた時代、押さえておくべき6つのポイントを紹介する。
モバイルクラウド時代、ユーザーが考えておくべきこと
本連載では、モバイルクラウドのバラ色の世界観を中心に言及してきた。モバイルクラウドが行きつく先がどんなものになるのか、あらかじめ考えておかねばならないことがある。
端末までが仮想化するモバイルクラウド2.0の世界では、自分が扱っているデータがどこにあるのか、どこで処理されているのかは問題ではなくなり、気にする必要はなくなる。その反面、どこに保存してあるのか分からないことは、どこかで誰かに盗み見られている漠然とした不安と常に隣り合わせになることでもある。
また、消したいデータを持ってしまったとき、それを自分の意志で意図的に消すことができたと思っていても、それが本当にこの世から消え去っているのかについても不安が増す。これについてはデータを追随して消去する機能が必要になるだろう。
著作権に対する考え方も変わっていく可能性がある。現在、私たちが所持している音楽ファイルは、オリジナルではなくいわばローカルコピーであり、本物とはいえない考え方もあるだろう。さまざまな考え方があるが、例えばある人の管理管轄から外れた瞬間にコンテンツが利用できなくなる電子透かしが入っている音楽ファイルの形に移行することも考えられる。例えば、一定期間アクセスされないと消えてしまうようなものをダウンロードすることも考えられる。
クラウドモバイルが人間に与える影響
そして、最も考えなければいけないのは、クラウドがさらに進んだ先の世の中が私たち人間にどのような影響を与えるかだ。
私たちは検索サービスをふんだんに使うことによって自らの脳で記憶しなくなり、検索結果を得ることで考えなくなってきている。考えなくていいし、記憶しなくていいとなったとき、自分とそのデータの関係性もあやふやなものになってしまうだろう。そのとき、自分の管理しているデータが重要なものかどうかをどうやって認識すれば良いのだろうか。
そんなモバイルの世の中には車だけでなく、人間自身もモビリティのある「デバイス」になる可能性さえあると著者は考えている。既に人間にもコンピュータを埋め込むことはできる時代になり始めている。よってそれを倫理的に許容するかどうかだけの話で、ヒューマノイドといってよい、人間とコンピュータが組み合わさったモデルができ上がってしまうのもそんなに遠い未来の話ではないかもしれない。
既に心臓ペースメーカーのようにモバイルデバイスと呼んでもいいようなものが体の中に埋め込まれている人がいる。だったらなぜメモリを埋め込んではいけないのかという議論が出てきて当然だ。
今後は、さらにコンピューティングパワーがあちこちに存在するのだから、その先の世界で人間がその端末の1つになることもなくはないだろう。
コンピューティングの埋め込みはダメだけれど、ストレージの埋め込みならOKといった世界も実はすぐに来るのかもしれない。ただし、忘れない脳を持ちたいと誰しも考えるかもしれないが、忘れないものは忘れてはいけないものだし、忘れるものは忘れてもよいほどの重要さの情報と考えることもできる。逆説的だが、忘れない脳を持った瞬間に、親しい人の顔でさえ感情的には覚えなくなることだろう。
そうなれば、SFの世界のような、コンピュータに支配される人間が現実味を帯びてくる。要は私たちがそんな世界を志向するかどうかなのだ。
私たちはモバイルクラウドで便利で効率的な仕事のやり方や快適な生活を手に入れるかもしれないが、その反面、そうした便利な方法を、主体性を持って使うことが何よりも重要である。モバイルデバイスと便利なクラウド環境は、私たちが使うべきものであって、私たちが使われるべきものではないはずだ。
考えなくてよくなる利便性の時代だからこそ、モバイルクラウドを自らの手で主体的に考えて使う人が、その果実をふんだんに手にするだろう。
著者紹介:八子知礼(やこ・とものり)
松下電工(現・パナソニック電工)にて通信機器の開発・商品企画に携わり、朝日Arthur Andersen(現・PwC)に転職、5年半さまざまな企業へのコンサルティングサービスを提供。現在はデロイトトーマツコンサルティングに移籍し、TMT(Technology Media Telecom)インダストリユニットに所属している。
通信、メディア、ハイテク業界を中心に、商品企画やマーケティング戦略、新規事業戦略、バリューチェーン再編などのプロジェクトを多数手掛けている。
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