後に動いて先を取る――。これは白鵬の尊敬する昭和の大横綱・双葉山が得意としていた立ち合いだ。相撲だけではなく多くの武道にも共通する極意「後の先」を極めようと白鵬は昨年から本格的に取り組み始め、出稽古でも再三に渡って試す姿は多くのメディアや関係者にも目撃されていた。
相手を先に動かした上で、その出鼻をとらえなければならない。まさに高等技術が要求されるが、今場所の序盤ではそれを会得しつつあることを包み隠さず露にしていた。4日目に宝富士を下すと「今日も『後の先』だったつもりです。2日連続は初めてです。大変うれしい」「これで分からないけど、後の先は『平成は白鵬』で『昭和は双葉山』。2日連続というのはすごく深い意味がある」などと語っていたのは、その紛れもない証拠である。
実は13日目の稀勢の里戦で結果的に中途半端な立ち合いになって呆気なく敗れたことも、白鵬によれば「後の先」を駆使した末の失敗だったという。「(「後の先」が)合わなかったです。合う人と合わない人がいますからね。やる価値はあるかなと思った」というのが、その取組後の横綱の弁だ。
どちらかといえば、これまでの白鵬は立ち合いから相手をぶちかまして圧倒し、料理するのが本来のスタイル。その正反対とも言える「後の先」は一朝一夕の会得が困難な妙技で、身につけるには日々の稽古の積み重ね以外ない。
しかしながら本人も、それを十分に分かっている。「平成の大横綱」と呼ばれる立ち位置になりながら、まだまだ汗みどろになり続け、努力を怠ろうとしない。角界の中では“白鵬擁護派”から「昨年の九州場所で栃煌山を相手に2度の“猫だまし”を敢行したことは賛否両論だったが、あの戦術に関してもさまざまなことをやり尽くした白鵬が自分なりに考えた『実験的な戦法』だったと言えるのではないか」という声が出ているが、これには筆者も同感だ。
なおもさらなる高みを目指そうとしている大横綱白鵬の今後は、世の「燃え尽き症候群」に悩む人たちをきっと勇気付けるに違いない。
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