世界中で毎日8万個 BAKEの「チーズタルト」が売れるようになった理由おいしいだけではない(2/4 ページ)

» 2016年06月14日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

シンガポールで起きた“事件”

 BAKEの長沼真太郎社長は、北海道の洋菓子メーカー・きのとやを営む長沼昭夫社長の長男として生まれた。きのとやは1985年設立で、地域密着型の洋菓子店として道内のデパートや新千歳空港などに店舗を構える。今では道民はもとより、観光やビジネスなどで北海道を訪れた人たちにも知られる存在となった。

BAKEの長沼真太郎社長 BAKEの長沼真太郎社長

 真太郎氏は都内の大学を卒業後、総合商社での勤務を経て、2011年8月にきのとやに入社。すぐさま新千歳空港にオープンしたばかりの土産店「KINOTOYA 2(ドゥ)」の店長を任された。同店は新業態として1カ月前に開業したもののまったく振るわず、その売り上げアップが真太郎氏の大きなミッションだった。

 当時、きのとやでは看板商品のデコレーションケーキをはじめ、ロールケーキ、チーズケーキ、マフィン、ブルーベリーチーズタルトなど十数種類の菓子を取り扱っていた。その中で真太郎氏が最も好きなのがブルーベリーチーズタルトだったが、販売数は全店合せても1日あたり200〜300個程度と、とても主力とは呼べる商品ではなかった。「ぜひチーズタルトを売れるようにしたい」と真太郎氏は心に決め、KINOTOYA 2をブルーベリーチーズタルトにフォーカスした店にしようと考えた。

 そうした中、同年11月にシンガポールで開かれた北海道物産展に出店したときに、大きな転機が訪れた。

 真太郎氏は担当として会期中の2週間、現地で店頭に立った。そこには北海道の工場で製造したブルーベリーチーズタルトやクッキーなどの商品を持ち込んだが、ブルーベリーチーズタルトについては日本と同様、冷蔵したものを一度店内で焼いてから、箱に詰めて冷蔵ショーケースに陳列して販売した。

 前々からアジア諸国ではカスタードクリームを使った「エッグタルト」が人気だったため、きっと現地の消費者に受け入れられるだろうという目算があった。ところが、1日でせいぜい50個止まりと、からきし売れなかったのである。

 追い打ちをかけるようにトラブルが発生。ブルーベリーチーズタルトを詰める箱の数量を発注ミスしており、途中で箱がなくなってしまったのだ。

 当然、ブルーベリーチーズタルトを裸のまま冷蔵ショーケースに入れることはできない。そこで真太郎氏はオペレーションを大幅に変更し、オーブンで焼いたブルーベリーチーズタルトを鉄板ごとそのまま店先に並べ、焼き立てとして提供したのである。

チーズタルトを客の前面に押し出すスタイルに変えた チーズタルトを客の前面に押し出すスタイルに変えた

 するとどうだろう。焼き立ての甘い香りに導かれて顧客が殺到、鉄板の上に乗ったチーズタルトを前面に押し出すことで、商品ディスプレイの見栄えも良くなり、1日で1000個も売れたのだ。それから来る日も来る日も完売。ついには物産展の最終日を待たずに在庫がなくなってしまった。

 「箱に入れるのではなく、商品をしっかりと顧客の目の前で見せることや、焼き立てで香ばしいニオイがするといったライブ感を出すことが大切だと感じた。何よりも焼き立てのチーズタルトならば売れるのだと確信した」(真太郎氏)

 帰国後すぐさま、真太郎氏はこの成功体験を新千歳空港の店舗に持ち込んだ。

 店をチーズタルト専門店に改装して、シンガポールのときと同じく鉄板を顧客の前に並べるとともに、商品自体も改良した。ブルーベリージャムを抜き、焼き立ての食感を際立てるためにタルト生地を厚くするなどした。ほかにも、チーズムースの空気の含有量を変えて、焼き立て後の食感を滑らかにしたり、食べやすいようにサイズを小さくしたりと、改良を重ねて、その都度テストマーケティングを行い顧客の反応をつぶさに見た。そうして6〜7カ月後、今のBAKEのチーズタルトの原型ができ上がった。そのころには1日で3000個以上、現在では約5000個も売れるような、新千歳空港店の看板商品に育ったのである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.