廃線と廃車、近江鉄道が抱える2つの危機杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2018年03月02日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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鉄道ファンが支える仕組みも用意してほしい

 鉄道を実用的な道具として使う人からは実用的な運賃をいただく。でも、私のように鉄道を趣味として楽しむ人からは、楽しむための料金をいただいてもいいと思う。それも経営努力ではないか。鉄道ファン向けに積極的に利益を出そうという姿勢を見せれば、自治体に対しても、近江鉄道自身が観光資源になり得るというアピールになる。近江鉄道を目的として訪れる人々が、食事や観光で地域に利益をもたらす。鉄道を残そうという機運も高まる。

 そこで冒頭のエピソードに戻る。この駅では昔ながらの硬券きっぷを販売していた。窓口をのぞくと、きっぷホルダーや日付刻印機もある。

 「あ、硬券ですね」

 「懐かしいと思われそうですが、ウチはほとんど硬券です」

 そういえば、販売機は3カ所くらいしか見かけなかった。記念に入場券を買ってみた。経費削減で、各駅の専用入場券はなく、全駅共通の入場券に駅名のゴム印を押すタイプだ。

 「こんなので申し訳ないのだけど」と駅員さんが言う。

 日付刻印機を通す。なんと、年の値が一桁。しかも「8」。西暦だった。日付刻印機が昭和時代に製造された古いもので、年の10の位が5と6しかないという。日付刻印機の数字については、もはやメーカーが製造していない。しかし、ライセンスを受けて作っている会社はある。その費用もないのだろうか。何だか泣けてきた。

 そこで、思わず言ってしまった。「フリーきっぷ、安すぎませんか。もっと高くてもいいんですよ」と。

photo 記念きっぷではなく、通常の発券。硬券きっぷが現役だ。そして日付が西暦一桁

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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