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» 2018年05月30日 07時00分 公開

雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る:「単純労働」は淘汰されない 「AIで仕事がなくなる」論のウソ (3/4)

[今野大一,ITmedia]

「営業が嫌だから税理士」という発想ではうまくいかない

海老原: 営業という仕事が嫌だからという理由で、税理士や会計士の資格を取る人も今は結構多い。こういう「対人折衝を面倒くさがる人たち」は今でも食べていけないのですが、今後はさらに淘汰される可能性が高いと感じます。

 一方、税理士の資格を利用して「新しいビジネスを始める」という発想の人なら成功すると思います。例えば「税金を3割削減します」なんて触れ込みで開業している税理士事務所もありますし、「税務査察のときに私たちが最後の防波堤になります」とうたっている会社もある。そういう企業はきちんとお金を稼ぐための創意工夫をやっているので、AIには代替されない。今後も生き残っていきます。

 それはなぜか。税理士の免許を持ちながらも、人がやりたくない面倒なことや厄介なことをたくさんやってくれるからです。一方、対人折衝が嫌だから税理士資格をとって事務処理に逃げ込もうという発想だと生き残っていくのは難しい。現在でも年収300万円の税理士はたくさんいます。事務仕事しかできない人はAIに代替されてしまうのです。

――「手に職ワーク」が危険というのは衝撃的ですね。

海老原: 案外、世間から尊敬を集める仕事の中にも、なくなる可能性が高い仕事は多くあります。例えば、マーケティングの仕事。いろんなデータを集めて、そのデータを分析して、結論を出すという仕事ですが、実はこういった仕事はAIが非常に得意としています。

 国際会計のような仕事も同様です。「国際会計ができる」というと何となく凄そうに聞こえますが、その実は、お互いの国のルールを覚えて、「これではダメだ」と判断する仕事なのです。ルールを覚えたり、判断の基準を覚えたりするのは、AIの得意分野です。 

 一方、雑務の集合体のようなイメージのある「決算業務」は、実はマネジメントがとても必要な仕事です。他部署の社員が帳票を出してくれなかったときに「出してください」と催促するとか。取引先に対して「この帳票では脱税になってしまう」と指摘して取引先を怒らせたときに対応するとか。徹夜作業で倒れる人やサボタージュする人が出たりしたらその分の穴埋めをどうするか、とか。

 決算業務にはこういった正攻法での対応が難しい業務がたくさんあって、進めていく上では泥臭いマネジメントが必要になります。こういう仕事は、「AI代替」が難しい。逆にいうと、「雑務がくっついている仕事はなくならない」とも言えます。

――なるほど。AIに代替されるのはブルーカラーの仕事で、ホワイトカラーは代替されないという誤ったステレオタイプがありますね。

海老原: その通りです。国際会計やマーケティングに共通するのは「高度な知的単純労働」だということです。こういった高度に見える知的難度が高いけれども実は「単純」労働が最初になくなります。一方、今まで単純労働と呼ばれていた物理的作業や対人折衝を必要とする泥臭い業務の方が、「AI代替」されない。なぜならマルチタスクだからです。つまり、世間がもっているAIへのイメージとは逆の現象が起きるのです。

 これが15年先までの景色だと思います。最初に申し上げた「コンピュータの中で完結する仕事」がなくなるまでには、20年くらいかかると思います。

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