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「単純労働」は淘汰されない 「AIで仕事がなくなる」論のウソ雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(4/4 ページ)

» 2018年05月30日 07時00分 公開
[今野大一ITmedia]
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大切なのは「厄介な仕事から逃げずに今の仕事を頑張ること」

――知的な仕事の一部が淘汰される一方、営業などの「厄介な仕事の方が残る」というのは何となく希望を感じますね。

海老原: 執筆後に改めて、AIは「仕事の本質」に迫るものではないかという考えが芽生えました。AIを考えることで、皆が仕事の本質って何なのかをもっともっと考えていくようになるのではないでしょうか。

 例えば、「手に職ワーク」がAIに代替されることは、働き手にとっては「営業や部下管理などの泥臭い仕事がいやだから、逃げ込もうとする避難先」がどんどんなくなるということなのです。税理士の免許を利用して、本格的なコンサルティングやビジネスをやろうという人たちは、「AI代替」できません。一方、税務処理はAIによって完璧にできてしまう。「営業や対人折衝が嫌だから税理士になる」という、いかにラクをするかという発想では逃げ込み先がなくなってしまうのです。

――なるほど。「大変な仕事こそAIに代替されない」といえるのでしょうか。

海老原: そういうことです。何でも一生懸命やる人はこれからも食べていけるのです。一方、「資格さえ取ってしまえばラクができる」と考える人は生き残りが難しくなってくる。逃げ場がなくなってこそ、こうした「仕事の本質」が見えてくると思うのです。雑務に見える仕事だったり、人に謝ったり、ホスピタリティーを発揮する仕事は今後も絶対になくならない。だからAIは、「仕事の本質を考える良いきっかけになる」と思いますよ。

副業には大反対

phot 海老原嗣生(えびはら・つぐお)雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。その後、リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載)の主人公、海老沢康生のモデル。主な著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)、『仕事をしたつもり』(星海社新書)などがある。

海老原: だから僕は世間を賑わせている「副業」には大反対なのです(笑)。会社の中で、目の前にある仕事を一生懸命やることが大事なのではないでしょうか。その中で、逃げずに成長し続けることが重要だと思っています。

 良く「会社と対等に渡り合える人間になれ」と言います。これは、その人が「退職したい」と言ったときに、会社から「お願いだから辞めないでください」といわれる人物になって初めて、対等といえるのではないでしょうか。

 会社員に限らず、この社会にはいろいろな仕事がありますが、職種が変わっても仕事の本質や能力には共通する部分があると思うのです。それまで本業で磨いてきた能力、例えば「発想力」「本質を見抜く力」「対人感受性」などの積み重ねがあれば、どんな職業であっても成功できるのです。営業を極めた人は、違う分野に移っても力を発揮する場合が多い。

 だから、今の仕事から逃げずに頑張ることが重要だと思います。今の仕事を本気でやっていると、そういった高みにつながっていくのです。

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