文科省の局長逮捕は「天下りシステム」崩壊の副作用ではないかスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2018年07月10日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]

エリートはひたすら自己保身に走る

 先ほども述べたが、局長が東京医科大学から私立大学の支援事業の対象校に選定するよう依頼を受けたのは2017年5月だ。まさに『朝日新聞』が、文科省内部から出たという「総理のご意向」文書を報道し、加計学園報道が燃え上がり始めた時期だ。これは言い換えれば、文科省の前川派が、安倍官邸に正式に宣戦布告をしたタイミングといってもいい。

 安心が崩壊して、勝ち目のない戦いへ突入した組織で、学歴エリートたちがどういう行動をとるのかというのは、敗戦直後の日本軍をみれば分かりやすい。

 敗戦が決定的になったとき、「高級将校」という学歴エリートのなかには、前線の兵士を置き去りにしただけではなく、一般人や普通の市民を放り出して真っ先へ本土へ逃げかえった人たちが多くいた、とさまざまな戦時中の記録が伝えている。つまり、「日本は神の国だから負けない」という安心神話が崩壊した日本軍でエリートはひたすら自己保身に走ったのである。

 文科省と日本軍を重ねるなんて常軌を逸していると思うかもしれないが、実は両者の組織のあり方は、親子くらいによく似ている。霞ヶ関における秩序の根幹をなすキャリア制度というのは、実は日本軍の士官制度をベースにしているからだ。

 これは帝大と士官学校を出たエリートたちが、さまざまな部署を転々としてながら無学歴の将校を飛び越えて出世しながら組織の全体像を学んでいくという人材育成システムで、これを経た「エリート指揮官」と、実際に現場をまわす「無学歴将校」という実務官がいることで、日本軍という組織は大きな力を発揮するとされたのだ。東大を出て難解な公務員試験を突破したキャリアが指揮官となって、現場で実務を知り尽くしたノンキャリが現場を仕切ることがよしとされている官僚組織というのは、なんのことはない日本軍のマネジメントの焼き直しなのだ。

 組織が丸かぶりなら、ガバナンスが崩壊したときにエリートがとる行動もかぶるはずだ。つまり、前局長は天下りシステム崩壊で「退官後の生活保障」が危うくなったことを受けて、エリートらしい強烈な自己保身の意識が働き、「子どもを医師にする」という新たな生活保障へとかじをきった可能性があるのだ。

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