文科省の局長逮捕は「天下りシステム」崩壊の副作用ではないかスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2018年07月10日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]
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システムエラーにまで目がいっていない

 「バカなことを言うな! お前みたいな低脳と違って文科官僚の局長はエリート中のエリートだ。そんな浅はかな不正に走るわけがないだろ」という罵声があちこちから飛んできそうだが、官僚組織のように閉鎖的かつ、学歴エリートのヒエラルキーで成り立つ世界の人が自滅しやすいというのは、多くの元エリートたちが認めている。

 実際、日本軍で下級士官だった山本七平氏の『一下級将校の見た帝国陸軍』(朝日新聞社)のなかには、かつて陸軍エリートだった人の、キャリア制に対するこんな冷静な分析がのっている。

 「調子のいいときはいいし、その組織の運営だけで対処できる間はこれが一番いいんですよ。だが、組織そのものの中身を変えて対処しなければならない場合は、だめですな。結局、壊滅するまで同じ行き方を繰り返しながら、それ以外に方法がないという状態になっちまうんです」(同書、48ページ)

 これを山本七平氏は「日本軍の末路の状態」と言ったが、筆者はまったく同じことがいまの文科省にも起こりつつあると思っている。

 「民間にたかる」という汚職の重しになっていた天下りが禁止された。しかし、キャリア官僚とノンキャリというヒエラルキーでがんじがらめに縛られた日本軍的組織には対処できない。そこで、これまでとまったく同じ「民にたかる」という方法を繰り返し、執着して自滅をしていく。今回の事件を受け、文科省の職員たちの間からは「このような古典的な事件を起こすなんて」という声が上がったことがその証左である。

 日本軍の敗戦パターンを見ても分かるように、閉塞した状況に置かれたエリートは何度も同じ過ちを繰り返す。「退官後は“民”に生活保障してもらえるのが当たり前」という思想にとらわれた文科省エリートが、「裏口入学」という「昭和の犯罪」をリバイバルしたのは、非常に理にかなっているのだ。

 70年経過してもいまだに我々があの戦争の原因を総括できていないのは、「天皇制が悪い」「軍国主義が悪い」と言い続けるあまり、日本型組織を暴走させたシステムエラーにまで目がいっていないことが大きい。

 日本の政治にもまったく同じことがいえる。

 国際的市民団体トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年、各国の公的機関の腐敗ぶりを調査しているが日本は20位〜14位あたりをうろうろしている。「安倍首相がすべて悪い」と喉をからすのも結構だが、個人にすべての罪を押し付けるだけでは、日本が前に進めないことは歴史が証明している。

 霞ヶ関といい、日本軍といい、ひとりひとりは善良な日本人なのに、組織の一員となって「顔」が見えなくなった途端、モラルの欠けた行為を行うのはなぜか。日本人がずっと避けてきたこのテーマにそろそろ真正面から向き合わなくてはいけないときではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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