「クールジャパン」迷走の背景に、日本人の“弱点”アリスピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2018年07月17日 08時12分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本の良さを世界に伝えたい熱い志

 『日本では、人々が日常で使うごく当たり前のですら、美しい』『教育によって、「道」は日本社会の隅々まで浸透してきた』などと、やや実態とかけ離れた話の盛り方もさることながら、筆者が気になるのは、「躍進日本」に重なる「傲慢さ」がちょいちょい垣間見えることだ。例えば、以下の記述が分かりやすい。

 『日本人の価値観のベースに自然がある。その独特の感性が、日本人を“オンリーワン”にしている』

 『たとえば、「虫の音」を音楽や機械音、雑音などと同じように右脳で聴く外国人に対し、日本語話者は左脳で聞く。音ではなく「声」としてとらえる独特の脳構造が、自然の変化に耳を傾けさせ、豊かな表現につながった』

 自然とともに生きている民族など世界中に山ほどいるのに、この地球上で我々しかいないと断言する。この選民思想ともいうべき「自画自賛」が随所にちりばめられたこの本を、日本政府は英文化して全世界へと発信している。

 これを見て正直、背筋が冷たくなった。

 筆者は『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)のなかで、『朝日新聞』など戦前マスコミが「優生思想」をベースに、誰に命じられることなく「自画自賛報道」にのめりこんでいくプロセスを分析したが、その流れや論調とまったく瓜二つだからだ。

 事実、「世界が驚くニッポン!」に書いてあることの多くは、『日本人の偉さの研究』(1931年刊行)など戦前の「自画自賛本」のなかで書かれていることの焼き直しである。

 「世界が驚くニッポン!」の最後のページには、これに関わった経産省の担当者や、民間の方たちの名前が掲載されている。恐らくみなさん優秀で、日本の良さを世界に伝えたい熱い志をもった立派な人たちなのだろう。

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