例えば、1939年、ナチスがポーランドに侵攻するなど緊迫する国際情勢下で催されたニューヨーク万国博覧会が分かりやすい。同万博は「明日の世界」を掲げた初の未来志向の万博で、パビリオンにはロボットや、コカ・コーラを1分間で100本のボトル詰めできる機械などが展示された。
では、そこで日本はどんな「明日」を世界へ魅せたのかというと、その名もズバリ、「躍進日本」という横九十尺(約27メートル)、縦十七尺(約5メートル)の巨大写真パネル。「わが産業、教育、スポーツ等各部面に亘って取材したモンタージュ写真」のなかで特に目玉とされたのが、「建国体操」だった。
『幻の東京オリンピックとその時代 戦時期のスポーツ・都市・身体』(青弓社)によると、「建国体操」とは、「古武道の突く・打つ・切るの型を基本とした体操で、「全体の呼吸・動作・波長を合わせて一体感を作り出し、規律・共同精神の涵養を図ることが意図」されたものだという。要するに、北朝鮮のマスゲームみたいなものだ。
現代日本人の感覚では、「こりゃ戦争も負けるわな」という残酷なまでの国力の差だが、当時の日本人は「我らの建国体操を見て世界が震撼!」みたいな感じでご満悦だった。
なぜそんな痛々しい勘違いをしてしまったのかというと、「躍進日本」という自画自賛マーケティングの副作用で、政・官・民すべてが謙虚さを失い、自分たちを客観的に見れなくなっていたからだ。『全米に日本風!』(読売新聞 1937年1月28日)、『躍進日本の眞姿 根本は精神力!』(読売新聞 1938年1月3日)なんて見出しが新聞を飾っていたのがその証左である。
このような「自画自賛病」に冒された人々が戦争をおっぱじめても、敵の戦力や自分の置かれた状況を客観的に振り返り、現実的な戦略を立案することなどできるわけがない。
つまり、この万博後、ほどなく始まった太平洋戦争という国家的プロジェクトの大惨敗は、「躍進日本」がもたらした「傲慢さ」が引き起こした可能性があるのだ。
テキトーなことを言うなと怒られそうだが、この時代、誰よりも「日本」の弱点を分析していた人たちも、筆者と同じような結論に至っている。そう、米軍だ。
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