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» 2018年08月07日 08時00分 公開

スピン経済の歩き方:熱中症の被害者が出ても、夏の甲子園が絶対になくならない事情 (3/7)

[窪田順生,ITmedia]

「甲子園タブー」が存在する

 「原発タブー」なんて言葉が世に広まったことからも分かるように、この国のマスコミが広告や情報源である官庁への忖度など、さまざまなオトナの事情から、「原発」というものに対して、極めて偏った情報を流していた事実があったことは今さら説明の必要はないだろう。

 実はこれとまったく同じ構造の「甲子園タブー」というものが存在する。分かりやすいのが、西東京大会決勝で154球を投げた日大鶴ケ丘の投手が試合後、脱水症状を伴う熱中症を発症して救急搬送された「事件」だ。

 報道によれば、この投手は3回戦も熱中症で途中降板し、決勝戦では全身の痛みを訴え、歩行も困難になったという。

 まともな常識をもつ人間ならば、「いやあ、高校野球って本当にいいものですね」で片付けるような事件ではない。当然、複数のメディアがこれを取り上げたが、いつもなら真っ先に大騒ぎしそうな人たちがだんまりを決め込んだ。

 『朝日新聞』である。

朝日新聞は球児が熱中症を発症して救急搬送されたことを報じなかった(写真提供:ゲッティイメージズ)

 先ほども触れたように、この大新聞社は「夏の甲子園」の主催社であり、あの手この手でイベントを盛り上げていく立場。なにをかいわんや、である。

 しかも、もっと言ってしまえば、このように「報道しない自由」を行使するのはまだマシなほうで、明らかに「ある方向」へと読者を誘導させようという作為に満ちた、我々の世界で言う「向けた記事」も散見される。

 例えば、7月22日、新潟の私立加茂暁星高校が地方予選準決勝で敗れたことを、「練習直後に倒れ…亡き女子マネジャーへ、捧げる2本塁打」(朝日新聞デジタル 2018年7月22日)なんて感動秘話っぽく報道したが、実はこの女子マネージャーは、「練習後に約3.5キロ離れた学校に戻るため、選手とともにランニングをさせられて倒れた」のである。

 しかも、遺族によると、倒れたときに心室細動を発症していたが、野球部の監督は「呼吸は弱いけれどある」(朝日新聞デジタル 2017年7月25日)とAEDを使わず、救急車が来るのを待っていたという。数日後、女子マネージャーは低酸素脳症で亡くなった。

 本来、この女生徒に捧げなくてはいけないのは「2塁打」などではなく、なぜ子どもの命を育むはずの学校で、このような事態が起きたのかという原因究明と、「科学的指導とかけ離れた根性論」が横行して、毎年のように死者を出す野球部をどう変えていくのかという改善策であるはずなのに、かなり強引な力技で、「感動ドラマ」へすり替えているのだ。

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