#SHIFT

シニアが変えた「奇跡の町工場」 加藤製作所の働き方改革日本一の高齢者雇用企業(2/5 ページ)

» 2018年09月21日 07時30分 公開
[石山恒貴ITmedia]

まずはやってみる、やれば、なにかが変わる

 ところが、画期的すぎるアイデアに、社外の反応は、なかなか追い付いてこなかった。早速ハローワークに相談にいったところ、担当者から「高齢者は難しいですよ。高齢者がハローワークに来ても、求人がないので、皆、諦めて帰ります」といわれてしまったのだ。当時は、高齢者を雇用する企業が、ほとんど皆無だったのだ。

 しかし、ここで諦める加藤社長ではない。悩んだ結果、自社で求人チラシを新聞の折り込みに入れることを思い付く。その求人チラシが、以下の写真である。

phot 「定年はもうひとつの新卒。」と書かれた最近の求人チラシ

 写真は最近の求人チラシだが、「意欲のある人求めます。ただし60歳以上」というキャッチフレーズは同じだ。言いたいことは、「定年はもうひとつの新卒」ということなのだ。キャッチフレーズにインパクトがあることには自信があったが、実際にどれくらい応募してくれるか、加藤社長は不安だった。2001年2月22日、求人広告は約2万部配布された

応募が殺到、うれしい悲鳴

 新聞にチラシを配ったその日から、応募は殺到した。朝7時から電話があり、初日だけで三十数件の問い合わせ、最終的には100人の応募があったのだ。中津川の多くの高齢者が、いきいきと働ける場を待ち望んでいたのだろう。

 10人の採用予定であったが、面接をすればするほど、笑顔のいい高齢者が多い。あの人も、この人も採用したいという思いが強くなり、結果的には15人を採用することになった。

 採用後、もちろん簡単に事が進むとは、加藤社長も思っていなかった。しかし、予想以上の苦難が、そこには待ち受けていた。

 加藤製作所では、採用した高齢者を、敬意をこめて「シルバー社員」(現在は「キャリア社員」と呼称)と呼んだ。シルバー社員は、若手社員とペアになり、仕事を覚えていくことになる。

phot 若手社員から真剣に学ぶシルバー社員

 シルバー社員は、若手社員から真剣に、熱意を持って学ぼうとする。しかし若手社員が繰り返し教えても、シルバー社員にはなかなか伝わらない。若手社員も想像はしていたものの、簡単に解決することではなかった。

 若手社員の戸惑いも増した。何度説明しても忘れてしまうし、不良品も発生する。「またシルバーだ」という発言も散見されるようになった。そんなある日、あるシルバー社員が、一日行方不明になる。朝には出社したものの、叱られて、気がついたら、会社を飛び出し、帰宅してしまったのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.