ピンチはチャンスである。加藤社長は、まず、現場の作業のバリアフリー化に取り組んだ。生産数を知らせるブザー音を分かりやすく、装置ごとに変え、高齢者に優しいメロディーにした。作業台は、各人の身長に合わせて調整できるようにした。冷暖房を改善し、半自動の箱詰め機を導入した。
高齢者にとって小さいものが見えづらいなら、字を大きくし、イラストを分かりやすくする。改善に終わりはないため、シルバー社員からの「改善提案」を継続して推奨する。「作業台に人があわせる」のではなく、「作業台を人にあわせる」のだ。
もちろん、これらの設備投資には、3000万円という多額を要した。しかし、投資額はシルバー社員の採用による効率化で十分回収できた。それだけではない。シルバー社員のための設備改善は、結果的にあらゆる社員の働きやすさにつながり、作業効率は格段に改善されたのだ。
ただ、若手社員の気持ちを変えた一番の理由は、シルバー社員の頑張りだった。シルバー社員が仕事を覚えるのは、確かに時間がかかる。しかしその熱意と真剣さは素晴らしい。時間がかかっても、シルバー社員の働きぶりが立派であることを、若手社員も理解するようになった。
ある日、製造部の管理者が社長室にやってきた。彼が投げかけた言葉は意外なものだった。「社長、シルバー社員たちは、あんなに立派に働いているのに、土日だけなんて、もったいない。平日も働いてもらいましょう」。
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